uoon @uoon_jp

ブース概要
お初にお目にかかります。うおおんと申します。 今回はボドゲをやらない友達とも居酒屋等で楽しめるコミュニケーション促進なゲームを作りました。といっても、なんかただ和気あいあい陽キャ。みたいなのも好きじゃないのでデスゲーム要素を足していたりします。 詳しくはTwitter、ブログ等で発信しますのでそちらをご覧ください。こだわりすぎて現在も鋭意製作中です。完成するのかな。(2023.11.01)
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- Story #04(終)「からあげにレモンをかけるとあり得ないほどキレるお嬢様」
- <前回までのあらすじ> “俺”は裏社会で名を轟かせる大組織の構成員。決して恵まれたとは言えない生活を送ってきた俺は一発逆転を夢見て裏社会の頂点を目指す。 その近道は、オヤジが溺愛する超絶我儘な一人娘に気に入られること。 しかし、俺の軽率な行動でお嬢様を取り巻くサバイバルゲームが大きく形を変え始めた。 <#01はコチラ> <#02はコチラ> <#03はコチラ> ------------------------------------- 「お嬢が倒れたぞ!!!」 「医者に連絡しろ!」 「なんでこんなことに…」 「いいから早く動け!」 「だって…何も…」 「だってじゃねえ!!」 うろたえる新入りに、声を張り上げ周りに指示を出す男。 あり得ないことが起きていた。 ここは誰もが知る大衆居酒屋「鳥貴族」。上品なものを好むお嬢が本来訪れるはずのない場所。隣では大学生がどんちゃん騒ぎ、先ほど床に落ちて割れたグラスの破片が未だに散らばっている。 それでも、さすが嘉拾組の令嬢、平静を保ち背筋をぴんと伸ばして焼き鳥を串から一つ一つ外して食べていた。 「どうスカ!お嬢。普段こんなところ来ないでしょ」 ここにお嬢を連れてきた張本人。若手組員の加藤は、こりゃ褒められるぞ、と自信に満ちた表情を浮かべていた。お嬢は何も答えない。加藤とは今日でお別れになるんだろうなと思った。沈黙を貫くお嬢に対して流石にまずいと思ったのか、はたまた何も考えていないのか加藤は続ける。 「ほら!お嬢の好きな唐揚げもあります。あ、レモンかけちゃいますね〜〜」 無神経な加藤の高い声が響く。そしてこれまた無神経にも添えられたレモンを手にとるために近くの唐揚げを素手でどかした。もうその時の加藤は見てられるものではなかった。お嬢以前に世話役である我々もストレスを感じる。 レモンが一雫、唐揚げに落ちたか落ちないか、その時。 お嬢が立ち上がり、バンと机を強く叩いた。 大人として、組の令嬢として、毅然とした態度を貫いていたお嬢が、彼の調子に乗った態度と言わずもがな苦手であろう大衆居酒屋の喧騒、そしてーーこれは恐らくだが、レモンが苦手であったこと、それが好物の唐揚げにかけられたことが許せなかったなど、あらゆる要因が今ここに集結し、爆発した。 立ち上がったお嬢の表情は正に鬼であった。鋭い眼光が加藤を捉える。 あれ、これ殺すんじゃねえか?誇張なく、そう思った。 お嬢が口を震わせている。言いたいことがありすぎて、何から言えばいいのか。どれから怒りをぶつければいいのか分からなくなっているようだった。 いよいよ、お嬢が口を開き声を上げようとしたその瞬間、お嬢の体は糸を切られた操り人形のように力を失いその場に倒れた。怒りが最高潮に達し、そのストレスを脳が処理しきれず、意識を失ったのだった。流石に可哀想、そう思った。 ——————————————— ことの発端は、間違いなく俺にあっただろう。お嬢の世話役の中でも確固たる地位を築いていた白髪の老人、名前は岩崎というらしいが、この岩崎がお嬢の機嫌を損ねないように全てを統括していた。要するに本当に踏んではいけない地雷を踏まないように俺たちの行動を制限していたわけである。俺はそれがこの先の邪魔になると思い、あの夜岩崎を処分してしまった。 結果として、その枷から解放された組員たちは我こそはとお嬢への猛アプローチをし始めたわけである。何がお嬢の気に障るのか一つも知らずに。 お嬢もお嬢で、頼りにしていた世話役がいなくなったことでそろそろ自分も大人としての振る舞いを覚えねばならないのではないかと思い始めたらしく。女の子は甘いものが好きという思い込みから始まった、組員による甘い朝食ブームがいよいよパフェになった時も、涼しい顔をして平らげていた。例え甘いものがいくら好きだったとしても毎朝の生クリームは辛かっただろう。 そんなことが重なり続けたある日、お嬢が外に出たいというので張り切った若手組員が連れて行ったのが「行きつけ」だという鳥貴族であった。そうして、お嬢は限界を迎えた。 「これから、お嬢の機嫌を損ねたものには組として正式な罰則をつけることにする」 翌日幹部から言い渡された衝撃の通達。 「一度でもお嬢が求めるモノを出せなかった組員、およびお嬢が求めないモノを出した組員はエンコ詰。その後再度お嬢に対して粗相を働いたモノには、死んでもらう」 やりすぎだよ。全員が思った。これまでも一番酷くて破門だったはずだ。それが殺すと宣言されてしまった。 この先の人生で、2回、お嬢の好みに合わせられなかったら人生が終わる。 途端にお嬢の世話役を志願するものはいなくなった。 2023年12月9日(土) 嘉拾組本部 「今日は雨ね。この天気レンティーニ、あなたはどう思う?」 「正に良い天気かと。雨が上がれば街の埃が落ちて気持ちの良い空気となります。今夜は散歩に出られるのがよろしいでしょう」 大柄なイタリア人。彼はフィットチーネ会とかいうマフィアに所属をしていたが、権力に目がくらみボスに謀叛を起こしたという。ただそれがあっけなく失敗に終わり、イタリアにいられないからと日本の極道に鞍替えをしたらしい。オヤジはその大胆さを気に入ったという。 「そうね、今日はとても良い天気だわ。夜はどこへ行こうかしら」 「海、でしょうね。千葉の方まで車をお出ししましょう。きっと製鉄工場の綺麗な夜景が見られます」 メガネをくいと上げるその男は、とても恵まれた家庭にありアメリカの有名な大学を首席で卒業するという人生の勝者。ただ、天才には天才の美学があるということなのか、そうした才能が活かせる場所、恵まれた環境を全て捨て極道の道を選んだ。基本的に何を考えているのかよく分からない男で、時々メガネをくいと上げてニヤついている。 「素晴らしいわ。でも明日は学校なの。夜景は少ししか見れないかしらね」 「…たった今、千葉のリゾートホテルを用意した。帰りの時間など気にする必要はない」 スマホを片手にタメ口をきく男。ジャラジャラと金や銀の装飾品を身につけている彼はカネ以外のものは何も要らないと常に語っている。カネが価値基準だからこそ信頼ができるとオヤジは言っていたが、お嬢の世話役に立候補している当たりカネ以外の欲がどこかにある気がしている。 「さすが、仕事が早いわ。夜が楽しみね。」 「そろそろ外出の時間です。ご準備を」 「あら、もうそんな時間なの。あなたはいつも冷静で助かるわ」 何が冷静だろうか。彼の腰には2尺3寸の立派な刀がくっついている。現代日本に眼帯をして刀を常備していて、警察の厄介になっていない人間がなぜ存在しているのだろうか。その見た目の異質さの反面、こうしてお嬢のスケジュール管理をしているのだから人は見た目で判断できない。 「それじゃ行ってくるわ」 「行ってらっしゃいませ」 俺はといえば、そんな曲者たちを眺めることしかできていない。今もこうして口にできたのは「行ってらっしゃいませ」という挨拶でしかなかった。冷静に考えれば、一人一言返しただけの今のこの短いやり取り。しかし、今彼らは1つでも選択を間違えれば指を詰めていた、ないし命を落としていたわけである。それを涼し気な顔をして超えていく彼らはまさしく怪物と言えるだろう。 お嬢様の側近、いつかはこの組の跡取りを狙う曲者揃いのデスゲームがこうして始まった。 <からあげにレモンをかけるとあり得ないほどキレるお嬢様に続く> -------------------------
- 2023/11/15 19:09
- uoon
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- Story #03「夜食のラーメンでおじさんを悩ませるお嬢様」
- <前回までのあらすじ> “俺”は裏社会で名を轟かせる大組織の構成員。決して恵まれたとは言えない生活を送ってきた俺は一発逆転を夢見て裏社会の頂点を目指す。 その近道は、オヤジが溺愛する超絶我儘な一人娘に気に入られること。 しかしお嬢様の機嫌を損ねればこの世界での死が待っていた。 失敗のできないお嬢様の夜食づくりが始まる。 <#01はコチラ> <#02はコチラ> ------------------------------------- お前は人の悪意に鈍感すぎると、いつかオヤジに言われた。 「あの時、ガキのお前が俺に話しかけてきた時点で思っていたことだけどな。お前は人に比べて危機を察知する能力が鈍い。人の悪意を想像する力が欠けている。分かるか、俺に話しかけてくる人間は普通いねえ。それは俺の風貌を見て、危険な人間である可能性が高いと想像をしているわけだ。コイツは話しかけただけで機嫌を損ねて人間を殺すような人間なんじゃないか、と」 「話しかけただけで人を殺すような奴はいないでしょう」 「そういうやりすぎな判断、妄想が人間を生かしてんだ。自分が想像できない他人を想像しろ。善人であればあるほど、理不尽な行動を起こすと思っておけ。」 ――この世界にはいるんだよ、そういう頭のネジが飛んだ奴が。頭じゃないところでモノを判断するしてる奴がな。 自家製醤油ラーメンは結局、出汁が命だ。だからこそ一番最初、鶏ガラの下処理が肝心。ここで鶏ガラの掃除ができない人間は何をやっても失敗する。料理に没頭していたはずが、ふと昔のことを思い出していた。オヤジの言葉を改めて反芻する。もし、今自分が置かれている状況に悪意があるとするなら…。 これみよがしに置かれた上等な瓶。片付けることもなく、今日この台所に足を踏み入れるものの目に留まるように置かれたとも考えられるこの瓶の存在。これが罠だとするのなら、お嬢が求めているのはそうした食器の美しさ、ではないということなのか? あの時、目玉焼きにかけるため用意された醤油を嫌がったのは見た目の悪い醤油差しが食卓に出されていたからで、逆に目玉焼きに塩をかけることを良しとしたのは塩の入れ物である瓶が美しかったから、というわけではない。そして、ライバルを蹴落とすがために俺が上等な皿を用意するように仕向けた。そういう悪意が、存在するんだろうか。 そうであれば、今俺が取るべき選択はなんでもない安牌、味噌や豚骨といったカードも存在する。しかし、それらはあまりに個性が立ちすぎている。選択として冒険すぎる。お嬢に関する情報が少ない今、そんな冒険はしたくなかった。 時刻は21時。お嬢へ夜食を届けるまであと2時間ほど。作り変える時間は十分にある。試作として作った醤油ラーメンを眺めながら迷っていると、 「それでいい」 後ろから突然声がした。白髪に片眼鏡、燕尾服の老人。お嬢のもっとも近くにいた執事のような男。 「お前の判断は何も間違っていない」 つい身構える。これは、罠なのか。 彼がこの台所に塩の瓶を置いた張本人なのだろうか。ならば、今の彼の言葉も必然的に罠ということになる。 「ただ、な」 老人の目がギラリと光る。それは何かを企むような濁った目ではなく、正直生まれて初めて見る、アイドルさながらの透き通った眼差し。一片の曇りもない意思を宿した瞳。それが少しづつこちらに近づいてくる。 「お嬢様のことは、私が一番理解しているんだ。分かるか?」 「は?」 「お前たちクソヤクザ共は、しょうもない下心で、お嬢様の好みを理解し気に入られようと、今、正に努力をしている最中。それは無駄だ。余計だ。やめてくれ。私はお嬢様が生まれた時から側にいた。既にお嬢様の好みを知り尽くしている。お嬢様以上に、私はお嬢様を知っている」 「そ、そりゃ凄いな」 気持ち悪い、と少し思った。老人はより興奮をあらわにしながら俺に近づいてくる。俺の腹に手を置き、耳元で囁くように続ける。それはもう、忠告を越えた脅しであった。 「凄いだろう。敵わないだろう。だからいいか、お前“も“余計なことはするんじゃないぞ。お嬢様の機嫌を損ねない選択に心血を注げ。間違ってもお嬢様を喜ばせようなんて気の迷い起こすんじゃないぞ。例えば、お嬢様に好かれようと余計な考えをめぐらせた結果、庶民じみた醤油差しを朝食の場に出すなんて愚策に走るゴミは本来お嬢様の目に映ることすらおこがましい」 大人気ない脅しだ。自分がお嬢の一番でありたいがためにわざわざこんなことまでするのか。 さらに信じられないことに、腹部に違和感を感じ、視線をゆっくりと下に向けると、黒く光る拳銃が突きつけられていた。 「いいな?」 「はい」 返事せざるを得なかった。命より大切なものはない。 しかし、だからといってこのまま引き下がるわけにはいかない。俺は夢を叶えるためにここに来たのだ。組織内の流血ほど無駄なものはないが、仕方がない。 それから一週間が経ったある夜のこと、俺は、名前も知らないその老人を始末した。 <続く>
- 2023/10/31 23:58
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- Story #02「朝食に目玉焼きを出すと醤油差しを投げつけるお嬢様」
- <前回までのあらすじ> “俺”は裏社会で名を轟かせる大組織の構成員。決して恵まれたとは言えない生活を送ってきた俺は一発逆転を夢見て裏社会の頂点を目指す。 その近道は、オヤジが溺愛する超絶我儘な一人娘に気に入られること。 兄貴のツテでお嬢の世話役の一人として生きることとなったが、その初日に見た光景はお嬢の朝食である目玉焼きに醤油をかけてブチ切れられる男の姿だった。 <#01はコチラ> ------------------------------------- 走り去っていく男に向けて、お嬢は思いきり醤油差しを投げた。定食屋などで見かける赤いキャップのついた醤油差し。それが地面に横たわり、カーペットにとくとくと醤油を注いでいた。 現実感のない光景を目の前に冷静な自分がいた。本当に目玉焼きに塩をかける人っているんだ、という驚き。さらに目玉焼きに何をかけるか、という議論において「毎日変化をつける」というユニークな発想もまた、目から鱗であった。そして目玉焼きに醤油をかけるよう提言したら一人の大人が組織から追放されたのである。 思い返せば笑い話だが、その朝の緊張感、呼吸一つもタイミングを間違えれば命を落とすような殺気立った空気は今でも忘れられなかった。 「新しい人?」 お嬢が俺の方にちらと目を向ける。震え出しそうな全身を何とか抑えて平静を装う。お嬢の隣で静かに目を瞑り佇む白髪の老人、片眼鏡に燕尾服。いかにも良いところのお家の執事といったいでたち。その老人が口を開く。 「左様でございます。木村の弟分のーー」 「だから名前はいいって。どうせすぐいなくなるんだから」 俺についてお嬢が話したことと言えば、この先一週間、この二言のみであった。初対面だからこそ当然と言えるかもしれないが、それにしても全くもって相手にされていない。そもそも人間としてすら見られていないのだと感じた。 その日の俺の仕事といえば、醤油に塗れたカーペットの洗濯。「部屋住み」としてオヤジの事務所で雑用をしていた頃を思い出す。オヤジも激昂した時、身近なものを投げつける癖があったため、醤油さしなど身近な調味料入れには気を使い、倒れても中身が飛び出ないものをわざわざ用意した記憶がある。 「それくらいはしとけよ」 どこかへ消えた俺の先輩に、少し呆れながらどうすればお嬢に近づけるかを考えた。 そしてその機は突然訪れる。 「お嬢の夜食、今日はお前が作れ」 お嬢の夜食はラーメンと決まっている。女子高生くらいの年齢だと思うが、夜中にカロリーを摂取することに全くもって抵抗がないらしい。問題は、その味。 先の目玉焼きの一件があったようにお嬢は味被りを極端に嫌う。しかしただ味を変えればいいわけではない。塩は良くて、醤油はダメだった。偶然にも、前回のお嬢の夜食は塩ラーメンであった。醤油ラーメンは恐らくNG…。 本当にそうなのだろうか。情報が明らかに1つ足りていない。お嬢はなぜ、あの時醤油を嫌ったのか。味が好みではないのか。 「うーん……」 台所で一人悩んでいると、隅に置いてある高級そうな小瓶が目に入った。西洋のアンティークを思わせる模様が真っ白な陶磁器にあしらわれている。どこからどう見ても高そうでオシャレな一品。中に入っていたのは、塩だった。 正解の見えない焦り、失敗したら人生が終わる緊張感の中、突然見えた光明。正解はこれしかない、そう思った。分かった、分かってしまった。お嬢も所詮は子どもなのだ。 <続く>
- 2023/10/19 0:09
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- Story #01「組長にあり得ないほど大事にされるお嬢様」
- 10月の中旬。観測史上もっとも長く続いたという猛暑の日々は唐突に終わりを告げ、その急な変化に町行く人々の服装は追いついていなかった。半袖短パンの青年が、寒そうに腕を組みながら駅へと向かう。そんな肌寒く、小雨の降る日。 「お前、出世したいんだよな」 「え?……はい、そりゃ勿論」 時代は変わった。今や反社会的勢力と呼ばれる俺たちも、街の喫煙スペースに押し込まれ肩身を狭くしてタバコを吸う。 「俺は昔からお前にはなんかあると、期待してたんだ。いや、今でも期待してる。でもお前も感じてるだろ。組織は成熟しちまった。悪く言えば腐っちまった。居座り続ける老人連中、その老人たちが安泰に生きながらえるためだけの理不尽なルールーー」 驚いた。組織への忠誠心は誰よりも厚く、正義感に溢れる兄貴が、いきなり組織をここまで悪く評価し始めたことに。 「変わっちまったんだ。俺が尽くしてた場所が、姿まるまる。俺はな、ずっと思ってたんだよ、お前が組織の頭になったらって」 「俺が頭…?」 「お前は人を見てる。一人一人と向き合える。高橋の一件もお前が不問にしたんだろ?おかしいじゃねえか、規則通りならとっくにエンコ詰めだ。」 「あれは事故ですから」 「それでも今の組織ならそんなことは関係ねえ。こんだけ巨大な組織だ、規則通りにコトを進めておけば、頭つかわなくて一番ラクなんだよ。でもお前はわざわざ上に頭下げて、いろんなところに貸し作って、高橋を守ったんだ」 高橋は何も悪いことをしていなかった。そう、それこそ大昔に起きた事件の何か圧倒的例外を罰するために、無理やり書き加えられた組織のルール。そのルールを侵すこと自体には何の罪もない。そんなルール違反をたまたま犯してしまっただけのこと。 高橋はそんなことで罰される人間ではない。これから組織をより大きくするために必要な人間。そう思った。 「上の連中も、お前だから許したんだ。一目置かれてんだよ。お前の人を見る目は」 規律に厳しい頑固者。そんな兄貴の突然の褒め言葉は、涙が出るほどに嬉しかった。 「だからよ、お前には組織のルールなんかに縛られないで、もっと上を目指してほしいんだ。どうだ?」 「どうだ…と言われましても、今まで通り組織に尽くすまでですよ。それが全うで一番の近道です。そうでしょう?」 「これがあるんだよ、本当の近道が。ハイリスクハイリターン。俺たちは今でも地獄の道を歩む人間、でもそれよりも厳しい修羅の道。一発逆転の魔境が。」 —————————————- 幼い頃の記憶、俺の素足は常に冷たいアスファルトに接していた。 父や母の名前は知らない。その親戚と思われる家で育てられたが、基本的に家の中にいることは禁じられていた。家の前で座り込んでいても怒られるから、町に出て時間を潰すしかなかった。 そんな俺の遊び相手になってくれた人がいた。公園の 2人がけベンチを丸々埋め尽くす巨大な体、額には手のひらより大きい傷跡。そんな見るからに危険な人間に、幼少期の俺は何を思ったか話しかけたのだ。 「おじさん、デカいな」 今思えば、信じられない愚行。そのまま死んでいてもおかしくない態度。しかし後に親子盃を交わすことになる組長、オヤジは大きな声で笑った。 当事のオヤジは既に裏社会を牛耳りあらゆる権力を手中に収めていた。それでも彼が渇望し、しかして恵まれなかったのが“子ども“であった。だから、遊ぶ子どもたちを眺め、少しでも心を満たそうと公園に足繁く通っていたという。しかしその見た目では誰も近寄って来ない。そんな中で声をかけてきた俺が相当に可愛く映ったらしい。公園でオヤジと話す時間は俺にとっても幸福な時間であった。オヤジは到底俺には想像のつかない世界の話をしてくれた。聞いたことのない美食、聞いてもピンとこないが恐らく相当贅沢な娯楽、聞いただけで身が震えるほどのスリル、何もかもがある。 いつからか、それを一度でいいから手にして見たくなった。そうして、中学を卒業したその日に俺はオヤジの下で働くことを志願した。 そんなオヤジに、待望の娘が生まれたのは今から10数年前のことだったか。 「このお嬢がまた大層ワガママでな。まあオヤジが甘やかしに甘やかして育てたことが一番の原因だが。お嬢の機嫌を損ねて組を追放されたヤツがもう三桁って話だ」 「冗談ですよね?」 「そう思うだろ。そんな下らないことで追放していい組員なんざうちにはいねえ。でもこれが事実だ。だからだ、分かるか?」 「何がですか?」 「そのお嬢に気に入られれば、オヤジの信頼も得られるし、組の最重要課題もクリアできる。一番の出世街道なんだよ。」 兄貴は真剣な顔つきで、少し声量を下げて続ける。 「お嬢様の世話役のポストは常に人手不足だ。お前の人を見る目は類まれな才能だと思う。絶対に生き残ることができる。やることは簡単だ。お嬢様が求めているものを察知して提供する。シンプルにご機嫌を取ればいい。どうだ、やってみないか?」 正直な話をすれば、このまま組織で燻っていては何も掴めずどこかで野垂れ死ぬのではないかという不安はあった。だからこそ、兄貴のオファーは俺にとって魅力的だった。 こうして、俺はオヤジの娘、組のお嬢様のご機嫌取りへと異動することになった。 「目玉焼きに醤油……?お仕置き決定ね」 「そんな…!毎日違う味付けをご所望されましたよね?昨日は塩で、明日は醤油にしましょうって」 「言ったっけ?でも今の気分じゃないし。ねえうるさいから、コイツ早く外に出してよ」 「そんな、そんな!!!!!」 シンプルに言えば幼稚、低レベル。衝撃的な光景が、目の前に広がっていた。 <続く>
- 2023/10/16 23:42
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- 「うちのブースを見てくれ」@ゲムマ初出展体験記
- <昨日までのあらすじ> お初にお目にかかります。初出展、初ボドゲ製作ということで二か月前からエキサイティングな日々を送ってきました。 ようやく、自分が欲しかった、素敵ボドゲができてきました。まだ箱詰めが終わっていないことが不安ではありますが、初のゲムマ、楽しい気持ちが勝っております。 --------------------------------------------- ようやく、余裕ができた。 ゲムマ初出展体験記と題しておきながら、最後の追い上げ、佳境、クライマックス、まさに終盤のことは記事にする余裕がなかった。 退社後はカードをスリーブに入れる作業だったり、それを箱に入れる作業を黙々と進めていた。カードは2つのゲーム合計して90種以上。それが100セットだからざっと1万枚。 10000枚。 最初の100枚をスリーブに入れ終わったとき本当に怖かった。終わる気がしなくて。 ただそれも今日、残すところあと3000枚。めちゃめちゃ残ってるじゃんと思う人もいるだろうか。ゲムマは明日から始まるが、ワイらのサークルは2日目しか出展しない。するとどうだろう、明日丸一日使えるわけだから余裕すぎて笑いが出る。 だからこうして、意気揚々とブログを書くことができる。 少し、前のことを振り返る。 箱が届いた時にはかなりテンションが上がった。カードは納期とコストの関係で名刺印刷。スリーブをつけることで誤魔化しているがやはり見劣りはする。そんななか、お金をかけて作った箱は、“製品感“がある。まとっているオーラが違う。 これは売り物だ。と思った矢先、売り物か…。と不安が生まれる。100個作ってしまった。それが2ゲームだから200個も。 少なく作ればよかったのでは?と思った人は過去のブログを読んで欲しい。50個も100個もあまり製作費用が変わらなかったのだ。 そこで頼れるイラスト担当に相談をした。 「どうにか売りたい。いっぱい売れるためには何ができるだろうか」 しばらくしてでてきたのは抽選箱だった。 「そもそも売り切れるとは思っていない。ならばプレゼントすればいい。抽選会をしよう」 弊サークルでは2作品を扱っている。どちらかを買ってくれた人はもれなく抽選に参加してもらい、当たればもうひとつプレゼント!というもの。望まれているか望まれていないかは別として、お祭り感でブースを盛り上げることはできそうだ。なんかこう、購入するにおいて1つの盛り上がり、楽しみになっていれば幸い。 (また、2種とも予約をしていただいている方は2種購入する前に一度抽選に挑戦いただけます。) さて、そんなこんなでやれる範囲でやれることをやって、いろんなものが完成した。 ブースを飾るためのボードやテーブルクロスなんかも届いた。 できなかったことといえば、製品ページの更新である。 説明書は作っているが、それはあくまで現物のカードがあることを前提に書いているためちょっと分かりづらい。そんなことを考えていたら結局更新できなかった。よくない。明日、なんとかルール説明動画が完成したら更新したい。 そして、今日。イラスト担当と日曜日に向けてチラシを急造したりした。いよいよ、当日を迎える。 もし、当日どこ行こうかなという参考のためこのブログを読んでくれた方がいるのなら、是非見に来るだけ見にきて欲しい。印刷ミスで使えなくなったカードを無料配布とかするので、それだけでも受け取ってもらえたら嬉しい。 明日も、ブログを更新できるくらいには余裕があると、本当に嬉しいな…。
- 2023/5/13 2:18
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