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お初にお目にかかります。uoon(うおおん)と申します。 ルールが分かりやすく、ボドゲに触れたことがない人もある人も変わらず楽しいものを作っています。 是非Twitterなどチェックいただけますと幸いです。

Story #04(終)「からあげにレモンをかけるとあり得ないほどキレるお嬢様」
2023/11/15 19:09
ブログ

<前回までのあらすじ>
 “俺”は裏社会で名を轟かせる大組織の構成員。決して恵まれたとは言えない生活を送ってきた俺は一発逆転を夢見て裏社会の頂点を目指す。
 その近道は、オヤジが溺愛する超絶我儘な一人娘に気に入られること。

 しかし、俺の軽率な行動でお嬢様を取り巻くサバイバルゲームが大きく形を変え始めた。

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<#03はコチラ>

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「お嬢が倒れたぞ!!!」
「医者に連絡しろ!」
「なんでこんなことに…」
「いいから早く動け!」
「だって…何も…」
「だってじゃねえ!!」

 うろたえる新入りに、声を張り上げ周りに指示を出す男。
 あり得ないことが起きていた。

 

 ここは誰もが知る大衆居酒屋「鳥貴族」。上品なものを好むお嬢が本来訪れるはずのない場所。隣では大学生がどんちゃん騒ぎ、先ほど床に落ちて割れたグラスの破片が未だに散らばっている。
 それでも、さすが嘉拾組の令嬢、平静を保ち背筋をぴんと伸ばして焼き鳥を串から一つ一つ外して食べていた。

「どうスカ!お嬢。普段こんなところ来ないでしょ」

 ここにお嬢を連れてきた張本人。若手組員の加藤は、こりゃ褒められるぞ、と自信に満ちた表情を浮かべていた。お嬢は何も答えない。加藤とは今日でお別れになるんだろうなと思った。沈黙を貫くお嬢に対して流石にまずいと思ったのか、はたまた何も考えていないのか加藤は続ける。

「ほら!お嬢の好きな唐揚げもあります。あ、レモンかけちゃいますね〜〜」

 無神経な加藤の高い声が響く。そしてこれまた無神経にも添えられたレモンを手にとるために近くの唐揚げを素手でどかした。もうその時の加藤は見てられるものではなかった。お嬢以前に世話役である我々もストレスを感じる。

 レモンが一雫、唐揚げに落ちたか落ちないか、その時。
 お嬢が立ち上がり、バンと机を強く叩いた。

 大人として、組の令嬢として、毅然とした態度を貫いていたお嬢が、彼の調子に乗った態度と言わずもがな苦手であろう大衆居酒屋の喧騒、そしてーーこれは恐らくだが、レモンが苦手であったこと、それが好物の唐揚げにかけられたことが許せなかったなど、あらゆる要因が今ここに集結し、爆発した。

 立ち上がったお嬢の表情は正に鬼であった。鋭い眼光が加藤を捉える。
 あれ、これ殺すんじゃねえか?誇張なく、そう思った。
 お嬢が口を震わせている。言いたいことがありすぎて、何から言えばいいのか。どれから怒りをぶつければいいのか分からなくなっているようだった。

 いよいよ、お嬢が口を開き声を上げようとしたその瞬間、お嬢の体は糸を切られた操り人形のように力を失いその場に倒れた。怒りが最高潮に達し、そのストレスを脳が処理しきれず、意識を失ったのだった。流石に可哀想、そう思った。

 

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 ことの発端は、間違いなく俺にあっただろう。お嬢の世話役の中でも確固たる地位を築いていた白髪の老人、名前は岩崎というらしいが、この岩崎がお嬢の機嫌を損ねないように全てを統括していた。要するに本当に踏んではいけない地雷を踏まないように俺たちの行動を制限していたわけである。俺はそれがこの先の邪魔になると思い、あの夜岩崎を処分してしまった。

 結果として、その枷から解放された組員たちは我こそはとお嬢への猛アプローチをし始めたわけである。何がお嬢の気に障るのか一つも知らずに。

 お嬢もお嬢で、頼りにしていた世話役がいなくなったことでそろそろ自分も大人としての振る舞いを覚えねばならないのではないかと思い始めたらしく。女の子は甘いものが好きという思い込みから始まった、組員による甘い朝食ブームがいよいよパフェになった時も、涼しい顔をして平らげていた。例え甘いものがいくら好きだったとしても毎朝の生クリームは辛かっただろう。


 そんなことが重なり続けたある日、お嬢が外に出たいというので張り切った若手組員が連れて行ったのが「行きつけ」だという鳥貴族であった。そうして、お嬢は限界を迎えた。


「これから、お嬢の機嫌を損ねたものには組として正式な罰則をつけることにする」
 翌日幹部から言い渡された衝撃の通達。
「一度でもお嬢が求めるモノを出せなかった組員、およびお嬢が求めないモノを出した組員はエンコ詰。その後再度お嬢に対して粗相を働いたモノには、死んでもらう」
 やりすぎだよ。全員が思った。これまでも一番酷くて破門だったはずだ。それが殺すと宣言されてしまった。

 この先の人生で、2回、お嬢の好みに合わせられなかったら人生が終わる。
 途端にお嬢の世話役を志願するものはいなくなった。

 

 

2023年12月9日(土) 嘉拾組本部

 


「今日は雨ね。この天気レンティーニ、あなたはどう思う?」
「正に良い天気かと。雨が上がれば街の埃が落ちて気持ちの良い空気となります。今夜は散歩に出られるのがよろしいでしょう」

 大柄なイタリア人。彼はフィットチーネ会とかいうマフィアに所属をしていたが、権力に目がくらみボスに謀叛を起こしたという。ただそれがあっけなく失敗に終わり、イタリアにいられないからと日本の極道に鞍替えをしたらしい。オヤジはその大胆さを気に入ったという。

「そうね、今日はとても良い天気だわ。夜はどこへ行こうかしら」
「海、でしょうね。千葉の方まで車をお出ししましょう。きっと製鉄工場の綺麗な夜景が見られます」

 メガネをくいと上げるその男は、とても恵まれた家庭にありアメリカの有名な大学を首席で卒業するという人生の勝者。ただ、天才には天才の美学があるということなのか、そうした才能が活かせる場所、恵まれた環境を全て捨て極道の道を選んだ。基本的に何を考えているのかよく分からない男で、時々メガネをくいと上げてニヤついている。

「素晴らしいわ。でも明日は学校なの。夜景は少ししか見れないかしらね」
「…たった今、千葉のリゾートホテルを用意した。帰りの時間など気にする必要はない」

 スマホを片手にタメ口をきく男。ジャラジャラと金や銀の装飾品を身につけている彼はカネ以外のものは何も要らないと常に語っている。カネが価値基準だからこそ信頼ができるとオヤジは言っていたが、お嬢の世話役に立候補している当たりカネ以外の欲がどこかにある気がしている。

「さすが、仕事が早いわ。夜が楽しみね。」
「そろそろ外出の時間です。ご準備を」
「あら、もうそんな時間なの。あなたはいつも冷静で助かるわ」

 何が冷静だろうか。彼の腰には2尺3寸の立派な刀がくっついている。現代日本に眼帯をして刀を常備していて、警察の厄介になっていない人間がなぜ存在しているのだろうか。その見た目の異質さの反面、こうしてお嬢のスケジュール管理をしているのだから人は見た目で判断できない。

「それじゃ行ってくるわ」
「行ってらっしゃいませ」

 俺はといえば、そんな曲者たちを眺めることしかできていない。今もこうして口にできたのは「行ってらっしゃいませ」という挨拶でしかなかった。冷静に考えれば、一人一言返しただけの今のこの短いやり取り。しかし、今彼らは1つでも選択を間違えれば指を詰めていた、ないし命を落としていたわけである。それを涼し気な顔をして超えていく彼らはまさしく怪物と言えるだろう。
 お嬢様の側近、いつかはこの組の跡取りを狙う曲者揃いのデスゲームがこうして始まった。


<からあげにレモンをかけるとあり得ないほどキレるお嬢様に続く>

 

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