ぜったい倍にしてかえすから

強く生きる、がモットー。自作ボードゲームを企画〜デザイン・製作〜販売しています。 <出品ゲーム> 『どうぶつカードバトル』:どうぶつのカードを出し合って、場のりんご・さかなを取り合う白熱読み合いゲーム!(←化粧箱new!!) 『ゆうしゃBがあらわれた ゆうしゃCがあらわれた ゆうしゃDがあらわれた』:魔王を倒すのは誰だ!勇者同士のバトロワ! 『ラップかるた3』:誰でも簡単にラッパーになれる!オリジナルビートであなたもラッパーに! 『Re:Memoria』:小説×ボドゲの協力ゲー!プレイヤーが変わればストーリーも変わるマルチエンディングをご用意。 『From the Golden Records』:宇宙に遭難した宇宙飛行士が、自分の居場所を信号で伝える推理×パーティゲーム!

サラリーマンが、ギャンブルをする理由
2023/12/4 22:59
ブログ

BLUE GUILD  ゲムマ2023秋販売

「ぜったい倍にしてかえすから」

に登場する5人のキャラクターは、700万円の借金を返済するためにギャンブルをします。

 

なぜそんな大金を、、、しかもどうしてギャンブルで、、、、?

 

気になる背景を、公開しちゃいます。

↓↓

 

 

「お前さぁ……何年目だっけ? こんな簡単な資料もまともに作れなくてよく会社来れるね」

 目の前で、先輩社員が椅子に座りながら俺に書類をポイって投げつけてそう言った。俺は立たされているので、先輩の生え際を眺めながら、足に当たる書類の感触を気にして思わず笑いそうになった。

(お前の指示だよ、これ全部。俺、知ってんだわ。お前が俺に指示出した後に、全然違うって課長に言われてんの)

 

「おい、聞いてんのかよ」

「はい、すいません」

「『すいません』じゃねえんだよ。そんなん学生だって言えんの。お前さぁ、8年目だろ? 新卒じゃねぇんだろ? なんでこんなこともできねぇんだよ」

「作り直します」

 課長がパソコン越しにこちらをちらちら見ている。あ、あいつ今ため息つきやがった。お前のせいだろ。お前がこんなクソみたいな奴を育てたんだろ。そいつに育てられる俺の身にもなってみろよ。

「さっさとやれよ。明日の朝までには直しとけ」

 窓の外を見ると空がオレンジ色に輝いていた。なるほど。今日も残業らしい。

 

 気が付いたらてっぺんを超えていた。日付が変わったあたりでクソ先輩にメールでデータを送り、そこから帰り支度をする。

(仕事はしたくねぇのに帰りたくねぇってのもなんか損した気分だ)

 そう思わせるのは、妻の存在だった。腹に俺の子供を宿した妻。もうそろそろ産まれるらしい。近いうちに産まれる子供の事で頭がいっぱいな彼女は、もちろん俺のことなんて気にしていない。金を稼ぐ道具としてしか見ていないのだろう。それは流石に卑屈すぎるかもしれないが、それでもこちらがそう感じてしまっているのだから仕方がない。

 ため息をつきながら会社を出たら、ポケットの中のスマホがぶるると震えた。画面を確認したら、先週SNSで知り合った女からだった。

 露出の多い服を着て自撮りしているその女から、連絡が来たのだ。わくわく感と不安感を半々に持ちながら、その女に連絡を返してみると、どうやら趣味が似ているらしい。連絡は続き、今度会おうという話をしていた。

 もちろん、妻には内緒に、だ。

 そんな女から『お仕事、お疲れ様』と連絡が来ていた。『最近忙しい』という話を伝えていたからだろう。妻とは違って、その女は弁えている。こんな時間になってから連絡するのは、俺に妻がいて、もうすぐ子供が生まれることも話していたからだ。深夜のやり取りが日常になっていたから、というのもあるだろう。

『くそ疲れた』とだけ簡単に返してスマホをポケットにしまう。ポケットの中で手を離す直前に、またしてもぶるると震えた。

 

『今、会社の近くなんだけど、どう? 〇〇駅の方』

 

 俺は画面を見て固まった。

俺の会社は、2つの駅のちょうど真ん中あたりにあった。会社のセキュリティのためにカードキーで施錠する必要がある。その操作を行って、右に進めば家へ向かうための××駅、左に進めばその女が待っている〇〇駅。

 

『まだギリギリ電車あるし、△△駅まで行って飲まない?』

 

 △△駅は、繁華街だ。この辺りで一番の繁華街。腕時計を確認すると、確かにまだその駅に向かう終電は間に合う。

 とりあえず、まずは施錠をしよう。こんなことで明日事務のおばさんから怒られたくない。

あのおばさん、朝早いんだよな。何が楽しくて朝7時から会社来てんだろうな、なんて考えながらいつもどおりにカードキーをかざしたら、明るい音で『ピっ、施錠します』なんて言うもんだから、俺は腹が立って左に向かった。

 

「あ、初めまして。ってかほんとに来たんだ」

「来いって言っただろ」

「お~?? 奥さんはいいのか~?」

 ケラケラと笑う女は、メッセージのやり取りそのままだった。陽気で露出の多い女。趣味が合って、俺と飲んでくれる女。

 妻が妊娠してから酒を飲まなくなったので、久々に女と飲む時間だった。

 適当に空いているバーに入って、ウイスキーを飲む。渋めのバーテンが最初の一杯を目の前に置いたときには、もう家に帰る終電は無くなっていた。

 メッセージをやり取りしていたとはいえ、初対面の女。それでも、そんなことが気にならないくらい話が弾んだ。女の手が俺の手に触れるたびに心が浮ついて(中学生かよ)と心の中で呟く。

 少しずつ酒が進み、それにつれてどんどん今日の先輩社員の愚痴がこぼれるようになっていた。

 女は最初、気の毒そうな顔をしながら俺の目を見ていた。それがだんだん、可哀想な人間を見るような目になって、そして気付いたら柔らかいものが唇に当たった。

 一瞬、何が起きたのか分からなくなり、そして少しずつ女の顔が自分の顔から離れて行っていることに気付いた。気付いた瞬間、店内を見渡すが、バーテンのおっさんは丁度居なかった。

 

「ねぇ、このまま……」

 

 気付いたら、ホテルにいた。だいぶ飲み過ぎたのかもしれない。目の前で女が鼻歌まじりに受付の人間と話している。

(受付の人間と……話している? ラブホテルで……?)と思ったが、「それじゃ、行こっか」と振り向いて笑う女を見て、不安はどこかに消え去った。

 おそらく、こういう遊びをしている女なのだろう。そう考えたら顔馴染みでもおかしくはない。

 チンっという古臭い音を立ててエレベーターが止まった。薄暗い廊下が続いている。女はハイヒールの音をカツカツと立てて、廊下の奥に進んでいく。

「ここだよ~」と笑って、一番奥の部屋のドアの前に立った。

 俺も黙ってついていく。心の中のわくわく感が抑えられなくて、部屋に入った瞬間、女に抱き着いてしまいそうな勢いだった。

 俺は女の後ろに立っている。女がドアを開ける。

(あれ? 今、こいつ鍵……開けた……っけ?)

 そんな思考を浮かべつつ、部屋の中に入る。入った瞬間、女が後ろ手にドアを閉める。

 内鍵がガチャリと鳴る音と共に、女の声が響いた。

 

「お客さんだよ」

 

 目の前に柄モノのシャツを着た男が3人立ちはだかった。

 

 

「お兄サンサァ……分かってるヨネ?」

「この人、鯖金組の組長のオンナだよ?」

「そんなオンナにねぇ……駄目じゃない、素性ペラペラ話して」

「奥さんが悲しむネェ」

「お子さんもそろそろなんだろ?」

「会社にもバレたくないもんね」

「ということは、分かってますヨネ。お兄サン」

「おたくの会社、それなりにお金もらえるらしいじゃん」

「いいスーツ着てるもんねぇ」

「あの会社で働けるってことは、俺らと違っていい大学とか出てんだろうナァ」

「お兄さん今年で30歳だっけ?」

「あの会社で順調に30歳ってことは」

「それなりに貰ってるヨネ」

「いいんだよ。無理やりホテルに連れ込んで……とかでも」

「『妊娠した妻をほったらかしにして若い女と不倫』ってハナシ」

「とりあえず、700万でいいヨ」

「そんくらい貯めてんだろ?」

「出産費用、育児費用、それなりに給料の良い会社。ね、あるよね」

「そんな泣きそうな顔しても無駄ダヨ。無いなら無いで仕方ないシネ。そのお金、俺らが貸してアゲル」

「貸したお金を、この女に渡して、『不倫』については黙っててあげる」

「その代わり、借りたお金は返さないとね」

「え? お金無いノ? もうすぐ子供産まれるノニ? クズだねぇ、お兄サン」

 

 そして男が俺に、1つの名刺みたいなものを渡した。

 

「お金が無いナラ、そこに行ってみなヨ。うまくいけば、沢山稼げるヨ」

 

 

 完膚なきまでの美人局だった。小便をちびらなかっただけ、自分を褒めてやりたい。そう思えるくらいには、ホテルの入口では孤独だった。

 免許証のスキャンを取られ、放り出された。ポケットには、さっき男から渡されたカード。

 手書きらしい地図が書いてある。

 

「来週の日曜日、そこにオイデ」

 

 ねっとりした、男の声が頭の中で響き続ける。

 そんな中でも、家には帰らなければいけない。どうせ明日も仕事なのだ。日常を思い描くと、その場所にあの女や3人の男たちの影がうろつくと考えたら、寒気がした。

 何も考えられない頭で、大通りにつき、たまたま通りかかったタクシーを見つけて、力なく腕を上げる。

 ハザードを焚いてタクシーが止まり、ドアが開く。

 丁度、乗せていた人を降ろすところだったらしい。会計を終えた男とすれ違うように、俺はそのタクシーに乗り、何も気にせずに椅子に座り込んだ。

 

「あれ?」という声と共に、運転手が振り返る。

 頭の中で色々な感情が蠢いている俺の前に、どこかで見知った顔があった。

 

「久しぶりじゃん、大学卒業ぶり?」

 

 

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