江神探偵事務所 @ejingar
マーダーミステリーを軸に、一風変わった推理ゲームをお送りする「江神探偵事務所」です。 (「ハコオンナ」のEJIN研究所の別名義です。)
- 『MAD&DEAD』とLARPや即興劇の親和性やいかに?
- 2019/5/7 16:37
ハコオンナのEJIN研究所新作、正体隠匿ゾンビゲー『MAD&DEAD』、実は即興劇やLARPにする前提で設計しています。
即興劇。
ようは、脚本のない、アドリブだけで行う演劇。
本来、脚本が担うはずのストーリーや起承転結なんかを全て役者がその場で作ることになるわけで、時間をかけて練り込める脚本と現場のアドリブの間に(一概に並べられないし、即興劇には即興劇だけの良さもあるにしても)いかんともしがたい差があるのは仕方のないことで、僕は「即興劇は通常の舞台よりクオリティ面で大きく劣る」とずっと思っていました。
のですが。
舞台でハコオンナをやってもらって以降、小劇場と呼ばれる世界にちょこちょこ足を向けるようになった僕が痛いほど感じたのが「いい脚本の欠如」でした。10本くらいかな?色んな小さな劇場で舞台観てみて、一応「面白い」といえるくらいにストーリーが成立しているものはその半分もないという驚き。役者さんの演技が見たくて行ってるのに、見せ場どころかまともな演技すらしようがない何の魅力もない登場人物と、盛り上がりも山も谷もテーマもろくに無く支離滅裂なストーリー。ハコオンナの舞台を作ってくれた脚本家、榎原さんが素晴らしい脚本家さんだったので、彼を標準と思い込んでしまった状態で市井を巡った僕は現実との落差に打ちのめされました。腕のある脚本家に恵まれた劇団は本当に少なくて、ふらっと見に行って当たりを引くのなんて不可能に近い、それはもう相当大変な世界だったんです。僕が行ってみようと思うそこそこ潤沢な資金や力のある劇団でさえそんな状態なら、もっと小規模な無名の団体ではさらに悲惨な状況になっているわけで。
まあ、そういうことがあった時に考えるのは「自分ならどう状況を改善するか」です。少なくとも、いい脚本を待つまでの穴埋めくらいには使えるものを用意できないものか、と。
この一つの回答として、「自分で書いてみる!」と書いてみたのが「ハコオンナドラマCD」でした。シナリオライターという職から身を引いて久しく、長尺のものを書いたのは随分ぶりでしたが、クオリティ的には起伏も含みも感情もあり、自分で書いただけになかなか満足できる出来です。これをフリーに近い状態にして公開することで、やる台本もなくて練習もできない、とかは回避できるのじゃないかと思ったりしたんです。が、70分くらいの脚本に丸1ヶ月ほどかかりました。年間どう頑張ったって12本。これでは何の助けにもならない事実が浮き彫りになりました。
次の一手が、ゲーム+即興劇へのアプローチでした。「いい脚本がないなら脚本なんてなくしてしまえばいいじゃない」もとい「即興劇よりクオリティ面で大きく劣る舞台なら即興劇でいいじゃない。面白い即興劇がやれるゲームを作ろうぜ」です。目当ての役者さんが何の輝きも放てず死んだ目で舞台に立っている姿を見て、絶望した僕がそう思ってもまぁ仕方がないと思います。
「即興劇+ゲーム」というジャンルは、ダイレクトに人狼やVoteShowが結果を出しています。より一層世界観とルールを固めることで、台本のない即興劇の枠でもドラマチックな展開は生み出せるのではないか、既存とは違う方向性のものを作ることで選択肢を増やすことが出来るんじゃないか。そんなふうに考えました。
自分が経験してるものの中では、何度か遊びに行ったLARPが近い位置。というわけで「観客のいるLARP」的な状態を即興劇+ゲームで成立させられないだろうか、というイメージで組み上げました。そうすれば、LARPとしても遊べるよね!という。
具体的には、「人狼で怪しい奴を(投票じゃなく)独断でキルできる」「吊るすとかでなく見栄えする銃とかでキルできる」「バタバタ死ぬる大惨劇が見られる」「疑心暗鬼で関係が壊れていく人間の闇が見られる」とかそのへんが着地点。これらの要素がある上で、世界観はできるだけ誰でも知っている普遍性の高いものに……そう、みんな大好きゾンビです。
僕の実質的なデビュー戦は『ゾンビリーバボー』そして『AHHHBANG!』。ゾンビは履修ジャンルです。一応、ゾンビもホラーですし、娘のおかげでホラーイメージが定着したEJIN研究所のカラーとしてもOKなところではないかと。ゾンビはどんなモンスターより人気も知名度も高く、「ゾンビが大量発生し……」というだけで危機感を煽れる。そして、低予算で作れる映画の代表すなわち衣装が揃えやすい。条件としてはもう完璧の完璧です。
後は正体隠匿要素の設定。ベタなところで狼側は「逃走した凶悪な殺人鬼」に。ここはあえて、ゾンビとは離しました。その隙間に理由を埋め込める余地があるので、気の利いたアドリブでの設定が面白くなるはずです。設定が乖離しているので、殺し回る手前の隠匿部分はゾンビベースで「噛まれたことを黙っている」が軸になるように設計……したのですが、噛まれるタイミング=仕掛けのタイミングが計れないので、武器いっぱい揃えて惨殺パーティーするほうが殺りやすくなってしまったのはご愛嬌。突然無双が始まる絵面があまりにショッキングで面白いので残しました。
システムのベースはハコオンナの次回作だったけどお蔵入りした2人用探索ゲーム「サカサオンナ」(実際二人プレイでMAD&DEADを遊ぶとほぼ同じゲームになります)。これにワクチンやゾンビもの定番の武器を揃えて世界観をバックアップし、隠匿要素と噛み合うように各部調整。単独で探索に行き、皆が待つ安全区画に帰ってくるを繰り返す。探索先で起こったことは探索者しか知らない形に。噛まれていることもあるし、皆殺しに出来る武器を揃えているかもしれない。そんな感じです。
舞台でイメージするなら、参加者全員がいる「安全区画」と、敷居された「探索先」があって、手番探索者は探索先に置いてあるデッキの上を引いて、安全区画に戻ってくるイメージ。戻ったら、何があったかを皆に説明する。この手番があるゲーム、ってのは僕的には大事で、持ち時間を決めて手番を行えば、各人が自分の「見せ場」を作れるはず。これなら、推しのいる舞台を見てる側も楽しいんじゃないかなーとか。
ただまあ、見世物にするならの欠点も見えていて、リミッターをかけていない関係で面白くなる時とそうでないときの差が振り幅が広いゲームなので、舞台でやるならせめて2回はプレイするか、事故が起こらないようリミッターをかけるなりの工夫はしないと「ぐだぐだ回」が発生して事故ってしまう、とか、お客さんに役職なんかの簡単な表(パンフ?)を渡さないと推理しながら楽しむまでの状況は成立しない、とかそういうのはあったりします。人狼が創意工夫で問題点をクリアしてきているように、そのへんの試行錯誤は必要になるだろうなあと。……まあ、やってみたい!っていう劇団や動画の人達がいればの話ですよねw 困っている人たちの一助になれれば楽しいなと思います。GMレスの正体隠匿ゲー。アドリブの練習くらいには使えないかなあ?
……というところでMAD&DEADのコンセプトの説明でしたヾ(*´∀`*)ノ。
引退宣言から一年、頭の中に残っているものを終活と称してこうして形にしつつ、脱出ゲームやらアトラクションやらに手を出してみたのですが肌に合いませんで、次の仕事場&遊び場を探しているのが現状です。いろいろ面白いことやってみたいマンなので、このゲーム使ってなにか仕掛けたりしてみたい時には遠慮なくお声掛けください。コンテンツとして大きくなってしまったハコオンナはもういろんな企業さんとか噛んでるので身動きが取れませんが、MAD&DEADは現段階なら比較的軽いステップで動けると思います(・∀・)。
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