蒼空久遠工房

ゲームマーケット2023春で初作製・初出展したまだまだひよこなサークルです。
現在、久遠蒼季が1人で活動しております。
カードを媒体とした『キャラクターを決めないバトルゲーム』の作製を目指しております。
よろしくお願いいたします!
発売ゲーム
魔法詠唱戦闘ゲーム「Elements&Essence(エレメンツ&エッセンス)」(ゲムマ2023春)
魔法詠唱戦闘ゲーム「魔法使いは詠み唱う」(ゲムマ2023秋)

Elements&Essence(エレメンツ & エッセンス) 前日譚 ~或る魔法使いの平易(?)なレッスン~
2023/5/11 20:23
ブログ

 春のうららかな陽気。
 日差しが日に日に強くなりつつある、そんな休日。とある町の山にも似た小高い丘にある旅館を改装した下宿、を装う大和荘。その裏の開けた場所に、高校でも使用している指定のジャージを着た少年少女三人が集まっていた。
 ここは人知れず重要霊脈地であるこの町を護る、対霊的生物戦闘集団《幻霊妖邪討伐衆(げんれいようじゃとうばつしゅう)》の拠点。人に対してイレギュラーな存在である妖邪(ようじゃ)を陰ながら討伐すべく、彼らは今日もこうして休みの日のお昼から修行などしている。
 そんなこんなで先程まで黒髪の少年・御笠木(みかさぎ)龍斗(りゅうと)と、黒髪長髪の少女・朝峰(あさみね)るみなの二人が模擬戦をしていたわけなのだが、
「やっぱり敵わないかぁ」
「えー、そんなことないよ」
 龍斗の方はぐったりとしていた。地面にそのまま座り込み、竹刀は近くに寝かせてある。対してるみなの方はというとまだまだ元気そうで、手にした身の丈ほどの長さの棒をくるくると手で遊んでいる。先端三〇㎝ほどの部分が竹刀のような作りになっている、先程まで使用していた獲物である。
 少年のがっくり具合の原因はというと、先程の模擬戦の結果でるみなにしっかりと完敗したのである。
「御笠木さんは手札が増やせると良さそうですね」
 二人にタオルを差し出し、ずっと審判として観戦していた暗めの茶髪にショートカットの少女・大和田(やまとだ)かのんは、かけた眼鏡を指で押さえて提案する。
 龍斗はタオルを受け取り、汗を拭きながら考える。とはいえ、戦いに使える方策などそうそう簡単には浮かばない。新しい作戦や手札がぽこぽこ湧いてくるなら誰も苦労はしないのである。
「ということで、魔法とかどうです?」
「魔法?」
 存在は知っていても今まで触れてこなかったその言葉に、龍斗の胸が少し躍った。
 今まで共にした戦いの中でかのんが使用していたところは目にしているが、実際どのような技術なのかは全く知らない。龍斗からすれば「なんかビームでてる」ぐらいの印象である。
「魔法はですね、言ってみれば精霊への業務委託です」
「業務、え?」
 思ってもみない言葉に龍斗は思わず聞き返す。そんな様子がおかしかったのか、かのんは淡く微笑みながら続ける。
「まず精霊っていうのは……、うーん上手く言えないんですけど、『その現象を司る存在』、みたいな感じです」
 ふむふむと、龍斗は姿勢を正して体育座りになりながら話を聞く。
「それで、その精霊に、報酬として魔力を準備して、『これこれこうして下さい』っていう文章を呪文にして発動するのが魔法なんです」
「はーい、かのん先生しつもーん! 魔力ってなんですか?」
横で聞いていたるみなが手を挙げてぴょんっと跳んでくる。
「いい質問ですね、るみなちゃん」
 ぴっと人差し指を立て、かのんが応える。
「魔力は、気を精霊が好む方に整えたものですね」
 気、とは魂が生み出す非物理依存エネルギー。生きているだけで作り出されるが、素養があれば超常を起こせるだけの力となる。普段の龍斗だと、これをそのまま身体や武器に纏って戦っている。
 すっと、かのんが伸ばした指に淡い緑の光が集まる。
「精霊は地、水、火、風、雷の五種類に大きく分けられてて、どれか一属性にお願いする形になります」
 あくまで大別なので地には鉄、水には氷とかが含まれますよ、とかのんは付け加えていく。
「お願いする精霊が決まったら、魔法の形と動きを、魔力を呪文の詠唱に乗せて依頼する形になります」
 指をくるくると回して光を攪拌していく。
「形は自分の魔力をベースにしてそこにくっついて貰うのか、それとも精霊にその形になって貰うのかでニュアンスが変わってきます。動きに関してはイメージが出来てたら割とざっくりめでも行けます」
 そうして光を薄く広げて宙に魔法陣を描き、かのんは澄んだ声で告げる。
「──風の精霊さん、私は魔力を球体にしておくので、それを使って攻撃して下さい」
 その言葉の完了と同時に、かのんの指の先へぽぽぽんっとゴルフボールほどの緑に輝く光球が三つ生成される。指揮を待っているかのように指に追従している。普段からかのんが戦闘でよく使う魔法──、であるのだが何かいつもよりサイズ感や数量のスケールが小さい。それに、何かがいつもと違う。
「いつもと詠唱が違う……?」
 戦闘を共にする龍斗は、耳慣れなかったその文章と記憶との違いに気付いた。
「そうです。いい気づきですよ」
 先生モードなのかニコニコと答え、かのんは指をひらひらと動かして答える。その動きに合わせて光球も右へ左へと動く。
「魔法の詠唱は言葉よりも、要素と明確なイメージ、それと魔力が大事になるんです。なのでさっきのは、魔法の要素を分かりやすく口語体で詠唱してみました」
 つまり先程のかのんが述べた言葉こそ呪文であり、いつもと違う詠唱でもちゃんと魔法が発動している、ということだ。詠唱の内容を解析するなら、『風の精霊』『魔力』『攻撃』といったところだろうか。
「ただ、どうも呪文によって魔法の強い弱いが微妙に出るみたいで、動作が安定する定型文みたいなのはありますね」
 精霊と意思疎通できた人ってホントに聞かないんですけどね、と結んで。かのんは打ち上げ花火のように緑の光球を天へと打ち上げた。暖かな日差しの中に翠の光線が流れるように吸い込まれていく。
 詠唱文言自由というのは中々難しい。そこに当たり外れがあるならなおさらである。魔法を使うならかのんから文章を習うか、それともオリジナルの詠唱を考えるか。むむむと龍斗は腕を組む。
「なるほど……?」
 とはいえいまいち全体像が飲み込めていないのか、龍斗は分かったような分からないような何とも言えない様子で頭上にクエスチョンマークを浮かべる。
「それで実際にどうやって使うかなんですけどまずは、気を魔力に変換する、そこが出来るかですね」
「ちなみに私はできないよ!」
 かのんのレッスンに元気よくるみながのっかる。確かにるみなが魔法を使っているところは見たことがないが、そういう理由だったのかと妙に納得した。もっとも魔法が使えなくても充分すぎるほどるみなは戦えるのであるが。
「それでどうやればいいの?」
 龍斗は聞きながら、自身の身体に気を満たす。聞いたとみればやってみたいチャレンジ精神である。
「うーん」
 その割に、かのんの表情が何とも難しい。
「なんというか、言葉に出来ないんですよね」
「え」
 唐突な梯子外しに龍斗は文字通り気が抜けるのを感じた。
「え、じゃあどうすれば」
「こう、気の形をなんとなく変えていって精霊が反応するのを探す、みたいな……」
「私はできないよ!」
 なんとも頼りない言葉に龍斗は天を仰ぎ、それでもと指先に気を集めて見よう見まねで形を変える努力をするのであった。
「でも、魔法って色んな組み合わせで色んなことが出来て、選択肢も広くてですね」
 肩を落とした雰囲気の龍斗に何とか頑張ってもらおうと、言葉を紡ぐ。あわわあわわと言葉を探して、ふと何かに思い立ったように、そしてと繋ぐ。
「楽しいですから」
 そうしてかのんは、柔らかく微笑んだ。

 なお。
 その後一日頑張っても成果が得られず、がっくりと肩を落とす龍斗の姿があったことを、ここに付記する。