BBBox https://twitter.com/obaba5689
2015年から『ランチボックス』にてオリジナルゲーム制作開始。
翌2016年には個人制作を始め、処女作『うんちばさみ』を発表。
2019年春には、個人としては初めてゲムマ出展。
2022年秋、1年半ぶりの新作『Troppoトロッポ~異世界の冒険と3つの扉』を発表予定!
- 新作『Troppo~異世界の冒険と3つの扉』ストーリーをご紹介♪
- 2022/9/29 10:54
『Troppo(トロッポ)』とは
「3」を表す「trois」と「扉」を表す「porte」を
掛け合わせた造語で、この世界の特殊性を表すため僕が作りました。
あなたはその不思議な扉を開け
3つの場所を行き来するようになります。
しかし、そこにあなたの自由な意思はありません。
それは夏の日の夕立のように、
不意に訪れる“めまい”のように
突然、貴方を別のシーンへといざなうでしょう。
どうぞしっかり聞いてください、
貴方がこの世界で
迷子になって
しまわないように...
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
馬は死んだ。
大学で勉強するかたわら、100年戦争で荒廃した町や村から、その場所独自に生まれた“文化”を収集して回るのが私のライフワークになっていた。夏休みを利用して遠くまで足を延ばしていた私は、旅の工程をあやまり山中で夜を迎えてしまった。「峠を越えれば小さな村があったはずだ」そう信じ、雨でぬかるんだ山道を進んでいて足を取られ、谷底まで転落し大事な愛馬を死に至らしめてしまったのだった。
谷底に流れる小川が生と死の世界を分かつようにせせらぎを作り、彼を彼岸へと連れて行ってしまった。唯一の友のその死は私を打ちひしがれさせるに十分であったが、同時に孤独感と死への恐怖を彷彿とさせるにもまた十分であった。なおも降り続く雨は雨霧となり視界さえも奪わんとしていた。私は急ぎ荷物の中から下山に必要な道具のみを集め、身支度を整えた。引き返し山を下りることにした。馬を無くしてはもう一刻の猶予も無い。ラベンダーやブーゲンビリアで彼を覆うように添え簡易な葬儀を済ませると、私は急ぎ山を下って行った。
山道に戻ることはできなかった。
私は谷底の流れを頼りに麓を目指すことにした。雨はいつの間にか小やみになっていたが、代わりに霧は一層濃くなり夏の暑さで蒸しかえしていた。霧の向こうに見え隠れし出したおぼろ月もまた目印の1つに加え、私は不確かな足元を一歩一歩確かめながら歩いた。早瀬に沿い、時によどみを渡って対岸を歩き帰路を急いだ。日が落ちてまだ1時間ほどだったはず、麓に出れば遠方に街の灯りも見えるかもしれない。わずかな期待に望みにを持って気持ちを奮い立てたが、徐々にそれは不安に変わっていった。いつになっても森は開けない。せせらぎはせせらぎのまま、広くも深くもならず、谷を曲がっても岩を越えても行く先の景色は変わらぬままだった。あのよどみはさっきも渡ったのでは?あのパステルの茂みは見た気がする。不安は不安を呼び、いつのまにか私は沢を小走りに走る様に下っていた。
それがいけなかったのだろうか。雨で濡れた衣服が体力を奪っていたのだろうか。
小走りだった歩みはいつしか朝の散歩のようにゆっくりとしたものになり、やがてトボトボと進むのみとなっていた。足元に流れていた小川がいつの間にかなくなっていたことも、目印の月が見えなくなっていたことも、気付かぬままになり、私は濃霧の中を彷徨い、力尽きた。
私は霧深い森の中に居た。
地面は苔むし道も無く、低く茂った藪が私の姿を隠していた。薄れる意識の中にある私には最早何も見えず、何も考えてもいなかった。私はゆっくり目を閉じた。白む空の下、徐々に晴れ往く霧の向こうにちいさな町が見えていた...
~Troppo 序文~