ゲーム製作部 みんみと

「貴族と高利貸」の歴史的背景について
2016/11/2 0:53
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「貴族と高利貸」のゲーム内容とは直接関係のない設定に関する記事です。まだ「貴族と高利貸」のゲーム内容をチェックしていない、ルールブックを読んでいないという方は、ぜひ、貴族と高利貸ゲーム紹介をご覧ください。

 

「貴族と高利貸」の時代背景

「貴族と高利貸」は新大陸からの金銀の流入をきっかけに経済が急拡大した西ヨーロッパが舞台のゲームです。

新大陸からの流入した金銀は、経済成長の蓋となっていた貨幣不足を解消して好景気を産みましたが、銀価が下落し大幅な物価上昇も産みだしました。それは商人たちの企業経営にとっては非常に有利な状況でありましたが、固定的な地代収入に依存していた貴族たちには非常に不利な状況になりました。

その結果、商人たちの経済力が貴族たちの権力を上回って力関係が逆転することになり、貴族の中には没落するものがあらわれ、商人の中には貴族の仲間入りするものや貴族に準ずる待遇を受けるものがあらわれました。

「貴族と高利貸」は、富を蓄積して力を持った商人たちが伝統的で時代遅れな貴族を食い物にしたそんな時代が背景になっております。

 

プレイヤーが「高利貸」じゃなくて「商人」なのはなぜ?

キリスト教において高利貸は強欲の大罪として禁じており、自らを高利貸と名乗るキリスト教徒はいなかったからです。

聖アンブロジウス(337~397年)は高利はおろか利子をとって金を貸すこと自体を非難しており、1179年に開かれた第三ラテラノ公会議は、高利貸をキリスト教徒の墓地に埋葬することを禁じました。この第三ラテラノ公会議以降、表向きに高利貸を名乗る人間はユダヤ人しかいなくなります。

しかし、金貸しは儲かる職業。ユダヤ人だけに金貸しを独占させるわけもなく、キリスト教徒の商人たちは抜け道を使って金貸しを始めます。まず、聖職者たちが「公正価格」という概念を導入して商業活動に正当な根拠をあたえ、商人たちは両替、手形取引、保証金、物品の購入・販売などの様々な商取引と金貸しを結びつけることによりキリスト教のタブーを回避して貸金業を行いました。なお、この商取引の元金の多くは教会の集めたお金です。教会も集めたお金の安全な運用先が必要だったのです。

ということで、このゲームのプレイヤーは物品の販売を通じてお金を貸す商人という設定になっております。

 

貴族だって自分の収入・資産くらい把握できるのでは?

「貴族と高利貸」の貴族はプレイヤーに言われるままに買い物をして財政が悪化して破産してきます。これはゲームだからという側面もありますが、伝統的な貴族の価値観によるものでもあります。

当時のヨーロッパ上級階級の模範書とされていたカスティリオーネの『宮廷人』には、お金に対しては無頓着、無関心であるべきということが記述されております。伝統的な貴族たちは、お金を数えることや倹約を悪とする価値観を持っており、自分のお金に関して無頓着だったのです。

そして、この時代は経済が急拡大し商取引が複雑化した時代です。貴族特権による収入や手形取引、ツケによる買い物など貴族の会計も単純なものではなくなっていきました。無頓着で会計技術のない貴族はますます自分の収入・資産を把握できなくなっていったのです。

 

 

参考文献

「帳簿の世界史」(文藝春秋)。Jacob Soll(原著)、村井章子(翻訳) ISBN978-4163902463