あんみつスタジオ @anmitsu_studio
虹の出るところからこんにちは。アナログゲーム制作チーム『あんみつスタジオ』です。 2024年6月に発足。少し不思議なゲームシステムと優しいアートワークをコンセプトに、軽~中量級のゲームを制作していく予定です。 ぜひ甘いものと一緒にお楽しみください。
- 『虹の橋ナビゲーター』Short Story ~あるナビゲーターの記録~
- 2024/11/11 22:48
…ここはどこだろう。
ああそうだ。今日から配属先が変わったんだった。
まさかこちらに来てまで動物に縁のある仕事に就くとは思わなかった。
人を相手にするよりは幾らか得意だ。
うまく務まると良いが。
新しい配属先の支給品は、何やらマークが描かれたこのバインダーとペンのみ。
状況に応じてあれこれ記入するよう説明を受けたが…まあやりながら覚えることにしよう。
早速、最初に案内する相手の元へ向かうよう言われた。
…あの雲の丘で寝ている子だろうか?
どうやらこのポメラニアンで間違いないようだ。
生前はとある夫婦の家で愛され、20歳まで長生きしたらしい。お爺ちゃんだ。
なかなかお昼寝から起きてくれなかったが、ようやく目を覚ましてくれた。
…少し警戒されているような気がするが気のせいだろうか?
ひょっとしたらこの格好のせいかもしれない。
…こればかりは仕方ない。こちらの世界に来た時、自動的にこうなってしまったのだ。
個人的には気に入っているのだが…。
ともかく準備はできた。出発するとしよう。
黄昏時が終わる前に。
ここはいわゆる「虹の橋」。
人間に愛されて生涯を終えた動物たちはこの橋を渡ってこちらの世界に来る。
そして1年に1日だけ、再び橋を渡って家族の元に帰れるのだ。
そして彼らを家まで案内するのが、我々「ナビゲーター」の仕事である。
ここが彼の家がある街、黄昏台一丁目。
その名の通り夕陽がよく映える。
…問題は、詳しい住所が分からないことだ。
虹の橋を渡ってくる子たちは大体、自分の家の場所をはっきりとは覚えていない。実際どの家も同じに見えるが…。
だが、探す方法はちゃんとある。
彼の記憶を見せてもらおう。
とある夫婦の家にいた、という情報も彼の思い出を見て分かったことだ。これができなくてはナビゲーターは務まらない。
とはいえ動物なので、あまりはっきりとは映らない。ヒントだけでも分かれば良いが…。
…ふむ、何か見えてきた。
なるほど。家の側に木があるらしい。
これでいくらか絞れるが…まだ候補が多いようだ。
ここは少し歩きながら、次の手がかりを思い出してもらうことにしよう。
…と思ったらまた寝てしまった。マイペースな子だ…。
間に合うかどうか心配になってきた。
~30分後~
途中やたらとコンビニに寄りたがるので、B区画j番地のコンビニに寄った。
生前に散歩でよく寄ったのだろうか?
ふとバインダーを見ると、コンビニの番地がいつの間にか記録されていた。
案内する子のリクエストに応えると記録されるようだ。
…評価に響くのだろうか。
寄り道に時間を取られてしまったので、地下鉄で一気に移動してしまおう。
生前に毎日経験していた帰宅ラッシュを思い出す…。今日は空いていてよかった。
…周りから見えないせいで、座れる場所は限られるが。
~さらに30分後~
少しずつ思い出のヒントも揃ってきた。
…が、もう少し先を急ぎたい。
仕方ない。無駄遣いはできないが、支給されたおやつを使うことにしよう。
好物の力で更に思い出が蘇るはずだ。
…よし、これでヒントが揃った。
さて。この子の記憶を見るに、これらの条件を満たす家を探せば良さそうだ。
この辺りだと思うのだが…どこだろう?
見つけた。ここだ!
…まずい。思ったより距離がある。
この子のペースで向かっていては日が沈んでしまいそうだ…。
仕方ない。奥の手を使おう。
支給品の羽で直接飛んで行こう。
貴重なものなので緊急時のみ使うよう言われているが…背に腹は変えられない。
短時間しか飛べないが、この距離ならなんとかなりそうだ。
見えてきた。あそこだ。
〜とある夫婦の家〜
「…あ、そのおやつ」
「うん、小太郎のお気に入り。コンビニのやつ」
「…まだ1年も経ってないんだね」
「ほんとにね。一緒にいるのが当たり前だったから…」
「…お盆だし、もしかしたら帰って来てるかもしれないね」
「そうだといいね…」
やれやれ。
何とか送り届けられて良かった。
ここに来る途中、他の家にも何人か同僚の姿が見えた。
お盆のこの時期、皆忙しく勤めを果たしているようだ。
私も新人ながら少しは役に立てたようで良かった。
さて、後は…。
後は、帰りも送り届けるだけだ!
《完》