暫定機関

同人TRPG制作サークル「暫定機関」です。 オリジナルシステム『蒸気銃劇RPG スチームスリンガー』『デモニックアクションRPG デモンズ23』『異能×スポーツTRPG Spiral Spinner's』物理書籍版の頒布を予定しています。

暫定機関職員の手記 その3【SPIRAL Spinner’sについて】
2022/4/20 0:03
ブログ

 

〇「死なない異能バトル」

今回ゲームマーケット春にて出品させていただく、拙作『SPIRAL Spinner’s』。

そのコンセプトはサブタイトルにもある通り「異能×スポーツTRPG」。「異能バトル」と「スポーツ」を掛け合わせようとして生まれたのが本作である。

 

ではなぜそのふたつが掛け合わさったのか。端的に言えば、「死なない異能バトル」ができるからである。私は、存分に「異能」を使っても死を呼び寄せない、異能バトルの世界観を作りたかった。

「異能バトル」に置ける「異能」は往々にして相手を殺しうる。炎をぶつければ肉体は焦げるし、電磁砲でも撃たれた暁には、無効化能力者でもなければ消し炭になってしまうだろう。「異能バトル」ジャンルの多くは、「人が死ぬ異能バトル」を行っていると思う。

ことTRPGにおいて代表的なのが『DX3rd』だ。

DX3rd。F.E.A.R様の展開する「TRPGの異能モノ」と言えばの金字塔。

そのDX3rdも「人がよく死ぬ異能バトル」をやっている。全てのオーヴァードが持つ強力なエフェクトは当人にとっての敵を殺し得り、上がり行く浸蝕率は、遠からず自身を最期へ追いやっていく。

そういうDX3rdが、私は好きだ。間違いなくTRPGシステムの中で一番。力を使うことの代償と、避けられない最期が見えているからこそ明かせない本性。死がとなり合わせだからこそ、セッション中の緊張感は絶えない。

 

だからこそ、自分で作る「異能バトルシステム」のコンセプトには、「死なない」を据えた。

理由の一つは単純だ。差別化である。その差異がなければ、「DX3rdでいいじゃん」という自分自身の声に耐えられないからだ。積み上げた歳月と、データ量、世界設定の規模。「人が死ぬ異能バトル」はDX3rdでできる。

けれど、差別化が理由なだけではもちろんない。私がDX3rdを遊ぶ中で「やりにくい」と感じていることがあった。それが、「思うままに異能を使う」ことである。

「異能バトル」をやりたいと思うプレイヤーの気持ちの一部分には、「かっこいい」から、という理由があると思う。炎を放つにしても、時を止めるにしても。だから演出にはこだわり、キャラクターデータとフレーバーの一致にあれほど時間をかける。

しかし、DX3rdの中のキャラクターにとって、異能を放つことは得てして「やらないでいいのなら、やらない方がいい」ものだ。ジャームを殺すことも、自分の浸蝕率を上げるのも、大切なものを天秤にかけた上での行動だろう。少なくとも、UGNサイドに類するキャラクターなら。

かっこよく異能を使いたい、というのはプレイヤー側の能動的なモチベーションだ。しかし、死の可能性がある戦いにキャラクターが「かっこいい」から挑むことは少ない。

TRPGはキャラクターの物語を体験する遊びだ。「ヒロインを助けるため」「世界を護るため」、自他の命を削るキャラクターに強く共感できる。そしてその姿はかっこいい。それでも、根底の部分ではキャラクターとプレイヤーのモチベーションは一致していない。

なぜなら「人が死ぬ異能バトル」だからだ。相手の命を奪うことも、自分の命が減り行くことも、今まで作ったDX3rd自PCの多くが、消極的だった筈だ。彼等にとっての「思うがまま、全力の戦い」とは「殺し合い」になってしまう。それを、物語の中の当人が「かっこいい」と認識するだろうか。

だから、その齟齬を解消したかったのが、「死なない異能バトル」だ。お互いに命を奪い合わない、ルールの上で対等なスポーツという世界。かっこよく全力をぶつけ合うことが、「殺し合い」にならないように。私は『SPIRAL Spinner's』のコンセプトを設定した。

物語としての「殺し合い」の共感性を否定するわけではない。あくまで、キャラクターが「殺し合い」という尊厳の否定を、許容しなくていいように。そういう舞台の上で、私はキャラクターと「かっこよく思うままに異能バトルしたい」というモチベーションを一致させたかった。さらに近いところで、物語を体験したかった。

そのたくらみの末が拙作となる。

 

正直、それらすべてを文句なく達成できたのかと言われれば否だ。改善策の浮かばない、改善点ばかりが目につく。

ここでは触れなかったが、勿論「死なない異能バトル」というコンセプトの達成だけで本作は造られていない。「エフェクトアーカイブのような、眺める楽しさ」。「戦略性のある、TRPG戦闘としての異能バトル」。「特訓の日々→大会という、シナリオメイクのしやすさ」などなど、願望を詰め込み過ぎたせいで有体に言えば「複雑で重い」システムになったと思う。

それでも、「これが『SPIRALSpinner’s』です」と言えるだけ、一個の作品にした自負はある。大変喜ばしい事ながら、SNS上で「楽しんでいる」という感想も拝見させて頂いている。手に取ってくれた方、遊んでくれた方々も含め、『SPIRAL Spinner’s』に触れていただき本当にありがとうございます。

今回は『SPIRAL Spinner’s』根幹のコンセプトのお話をさせて頂きました。ですが、今後はコンセプトにばかり囚われることなく、もっと遊びやすく、もっと楽しみやすい作品を作って行きたい所存です。次のゲムマに向けて次作も開発中ですので、何卒お目にかけていただければ幸いです。

(日回)