- スペシャルインタビュー2「momoune/モモーヌ様 インタビュー」【ゲームマーケット2026秋】
- 2026/10/12
【momoune/モモーヌ様 インタビュー】
ゲームマーケット2026秋 スペシャルインタビュー2
momoune/モモーヌ
(デザイナー/イラストレーター)
ボードゲームをジャケ写買い!「私もやってみたい」
――momouneさんは、やはり幼少期から絵を描くのがお好きだったのでしょうか。
momoune:お察しの通り、小さな頃から絵を描くのは好きでした。「マンガ家っていいな」「アニメーターって素敵だな」と、ずっと興味がありましたね。中学や高校でも、友達とイラスト交換をしたり、地元のコミケ的なイベントに参加したりしていました。大学受験では美大も考えたのですが、最終的に地元のデザインが学べる大学に進むことになって。一つのことを専攻するのではなく、プロダクトデザインだったり、人間工学だったり、デザインの基礎の基礎を少しずつかいつまんで勉強していました。そこで教えていただいたことが、今にすごくつながっています。
――では、就職もデザイン系の会社に?
momoune:私は就職氷河期の最後のほうの世代でして、地元の富山県から少し離れた地方で就職しました。最初はデザイン関係とはいえウェブの会社だったので、あまりに合わなくてすぐに辞めてしまって……。そこからアルバイトとして地方の雑誌編集会社に入って、デザインのスキルを学んでいきました。
――編集のようなお仕事もされていたんですね。
momoune:そうですね。記事の執筆は別の方がされていましたが、表紙を作ったり、雑誌の巻頭特集のデザインをしたり、一冊の中で担当分けをして週刊ペースでやっていました。マップや求人広告から、だんだんと表紙や扉ページへとステップアップしていった感じで。同時にイラストが得意だったので、デザイン業務と並行して社内でずっと描いていたんです。そうしたらやっぱりイラストが楽しくて、「いつか独立したい」と思うようになりました。
momouneさんがボドゲと出会うきっかけになった『はらぺこバハムート』
――そこから、どうボードゲームへとつながっていったのでしょうか?
momoune:独立してからは、ポスターや小冊子のデザインをしつつ、イラストも描くという生活を何年も続けていました。でも3~4年くらい前から「このままだと表現の幅が広がっていかないぞ」と悩み始めて。そんなときに、本屋さんで大好きなア・メリカさんがイラストを担当されている『はらぺこバハムート』というカードゲームを買ってみたんです。ゲームよりもイラスト目当てでしたが、大学時代にXboxの『カルカソンヌ』にハマっていたので、ボードゲームにもなじみがあったんですよね。遊んでみたらすごく面白くて、「ボドゲに携われば絵も描ける、デザインもできる……自分にもアートワークができるかもしれない」と感じ、すぐに「やってみたい!」と思いました。
――とはいえ、最初はどう動いていいのか分からないですよね。
momoune:そうなんです。まずは地元のボードゲーム屋さんに行ってみたものの、移転に伴う閉店セールの最終日だったんですよ(笑)。そこから1〜2カ月、そうして出かけた先が2024年春のゲームマーケットでした。
――最初は出展者ではなく、お客さんとして参加されたんですね。
momoune:私はゲームのルールを考えることができないので、あわよくば「ルールを作れる人に出会えたらいいな」という思いがありました。それからもう一つ、実際にゲームを制作されている方の講演が見たかったんです。そのときは、別府さいさん、はらセレブさん、タンサンあさとさん、それからヴィンセント・デュトレさんの講演を目的に参加しました。
――実際にゲームマーケットを訪れて、いい出会いはありましたか?
momoune:JELLY JELLY PRINTの山崎すはまさんに、自分が作ったモックを見ていただきました。「こういうものを作りたいんです」とご相談したら、帰宅後に「ボドトーーク」というイベントがあると教えてくださって。そこに行ったことで、ボードゲーム関係の方々とのつながりができました。
平面イラストとはまったく違う!? アートワークに挑戦!
自己紹介とポートフォリオを兼ねたイラスト付きの名刺
――「ボドトーーク」に参加されて、すぐに最初のゲーム制作につながったのですか?
momoune:「ボドトーーク」に行くにあたって、手ぶらは寂しいし、これまでボードゲームでたくさん遊んだ経験もない自分が行くのはご迷惑だろうと。せめて何か持っていこうと思って、ゲームのモックとトレーディングカードサイズの名刺を何種類か用意していったんです。裏面に何パターンかの絵をプリントして、「どれでもお好きなものをどうぞ」とお渡ししていたら、気に入ってくださる方がいて。それが、初めてボードゲームのデザインとアートワークを手掛けるきっかけになりました。
――最初に手掛けたゲームについても聞かせてください。
momoune:ほぼ同時期に2つのお話をいただいて、そのうちの一つがモノビーズさんの『スベルンダー1世』でした。11歳の物部さらちゃんという女の子がルールを考えた作品で、雪山をリフトで登って滑走して、制覇したコースに応じてポイントがもらえるんです。実際にアートワークを手掛けてみて面白かったですし、大学生の頃に学んだことが活きたなと感じました。
――通常のイラストとボードゲームのアートワークでは、感覚が違うものですか?
momoune:全然違いますね。ボードゲームはどちらかというと、これまで携わってきたエディトリアルデザインよりもプロダクトデザイン寄りなんです。ゲーム中でカードやコマを動かすタイミングが発生しますから、「どういうタイミングで、何を人が動かすのか」ということを考えなければいけない。ただ、私の場合は大学で多方面のデザインについて習っていたので「人って、自然とこういう動きをしてしまうよね」という知識で乗り切ることができました。人生、ムダなことはないですね(笑)。
コンポーネントの一つひとつにmomouneさんの工夫が光る『スベルンダー1世』
――なるほど……ただかわいいイラストを描けるだけではダメなんですね。
momoune:時間の経過で状況が変わるところや、アクションがあるのが、雑誌やカタログとは違うんですよね。ウェブで開催されていた長谷川登鯉さんのアートワーク勉強会に参加したんですが、その考え方もすごく役に立ちました。たとえば同じカードでも、手札にあるときと場に置いたときでは役割が変わっているので、「その瞬間にどう見えるとわかりやすく、楽しく遊べるか」を常に考え、どちらの状況でもストレスなく遊べるようにしなければいけないんです。
――ボードゲームを制作する中で、苦労することはありますか?
momoune: 2つあって、一つはスケジュール管理です。ボードゲーム制作はイラストを1枚ポンッと渡して終わりではなくて、印刷までの期間が長いんですよね。これまで、早ければ1週間で印刷まで進むようなタイトなスケジュールで動くことも多かったので(笑)、半年や1年というスパンだと、かえって感覚がつかめなくて……。ギリギリまで動けなかったり、いまだに苦労しています。もう一つは、ルールの動きや意図の理解です。まだまだ分からないことも多くて、編集者さんやゲームデザイナーの方にアドバイスをいただきながら進めています。
「イラスト・グラフィックジャンル」に初出展
――2025年秋にゲームマーケットで「イラスト・グラフィックジャンル」が追加され、ついに初出展されたんですよね?
momoune:ずっと出る側になりたかったんですが、私は依頼を受けてデザインやイラストを請け負う立場なので、自分で販売できるものがなくて。「イラスト・グラフィックジャンル」がスタートすると聞いて、まさに渡りに船というか、「逃す手はない!」という気持ちでした(笑)。
――実際に参加されてみて、反響はいかがでしたか?
momoune:「箱の裏にサインをしてほしい」と頼まれたときは、すごくうれしかったです。海外の方が翻訳アプリを使って「会いに来ました」と伝えてくださったりもして。2025年秋は、「イラスト・グラフィックジャンル」のエリアが固まっていなくてポツポツと混ざっていたんですが、2026年春には分かりやすく配置されたので、より“イラストレーター目当てに足を運んでくれている”という印象を受けました。
momouneさんの過去の出展ブース。クリエイターと触れ合えるのもゲームマーケットの魅力
――そこから、お仕事につながったケースもあったのでしょうか。
momoune:その場で「こういうことをお願いしたい」と名刺をいただくことが何度かありました。あとは、イラストレーター同士の横のつながりもできましたね。自分に来たお仕事でも、「あの人の方がテーマに合っているな」と思ったら別の方に紹介したりもしています。皆さん本当に優しくて、すごく居心地がいい世界なんですよ。ボードゲームに携わっている方は本当にいい人ばかりで、だから続けられているんだと思います。
――それもボードゲームの魅力の一つかもしれないですね。一方で「プロに頼むのは敷居が高い」と思っているゲーム制作者の方もいるのかなと。
momoune:全然そんなことはないので、まずは声を掛けてもらいたいです。声を掛けられて嫌な人間なんてほとんどいないので、皆さんきっと喜んでくれると思います。自分から行くのが苦手な界隈でもあると思うので(笑)、「はじめまして」とあいさつするだけでもきっかけになると思っていて。もし「こういうことを考えている」というアイデアレベルの段階でも声を掛けてもらえたら、予算に合わせていろんなご提案ができると思います。
――ゲームマーケットでの出会いはもちろんですが、ゲームデザイナーとイラストレーターのつながりは、どのように広がっていくものなのでしょうか。
momoune:私の場合は、テスト会に参加したことが一番大きかったですね。地元のショップやカフェに行くと情報が得られるので、直接聞きに行ってみるのが一番早いと思います。テスト会に参加すると、ルール構築の勉強になるだけでなく、「文字は小さすぎる」「必要な情報がバラけている」といったデザイン面の気づきも得られるので、制作者にとって学びが多い場所だと思っています。
裏方人生で溜まった“うっぷん”がボドゲで解消!?
――あらためて、momouneさんが感じるボードゲームの魅力を教えてください。
momoune:五感が刺激されるところです。コンポーネントをつまんで、持ち上げて、移動させる……その行動自体がそもそも楽しいですよね。ワーッと叫んだり、早く取ったり、ぶつけてみたり。大人になると普段なかなかやらない、フィジカルな行動が純粋に楽しいんです。それに、相手の反応がダイレクトに返ってくるのも面白いですね。私も本当はもっと遊びたいのに、家族がなかなか一緒に遊んでくれなくて(笑)。月に1回オフ会に参加するくらいなので、「もうちょっと時間を作って遊びたい!」というのが本音です。
ネコちゃんはお仕事中の癒やし担当
――アートワークを手掛ける際には、どういった流れで制作が進むものなのでしょうか。
momoune:本当にいろいろで、毎回パターンが違うんです。「ルールだけがあって、世界観やテーマは完全にお任せ」というケースもありますし、逆にほとんどすべてが決まっていて、あとは「キャラクターをワンちゃんにするか、猫ちゃんにするか」みたいなところにビジュアルを落とし込んでいく……みたいなケースもありますね。
――依頼の際に、お互いの作業をスムーズに進めるためのポイントなどはありますか?
momoune:最終的な締め切りと、“どういう雰囲気にしたいのか”を教えていただけるとありがたいです。私自身はそのゲームが「いつ、どこで、誰に、どのように遊ばれてほしいのか」が知りたいので、想定シチュエーションを5W1Hで聞くようにしています。楽しく遊んでほしいのか、じっくり考えてほしいのかでアプローチが変わりますし、「手にした人にどうなってほしいのか」が一番気になります。
――ご自身が手掛けた作品で遊んでいる姿を見る機会もあるのでしょうか。
momoune:アークライトさんの『オバケパレード』も担当させていただいたんですが、ブースで試遊している人たちを生で見て感動しました。やっぱり皆さんが楽しんでくれているが見られるのはうれしいですね。同じように、SNSに上がっているプレイ写真や動画を見るのもすごくうれしいので、今後もたくさんアップしてほしいです(笑)。
「かわいい!」と評判の『オバケパレード』。momouneさんはグラフィックデザインを担当(イラストはTeeziroさん)
――ほかにも、ボードゲーム制作ならではの喜びはありますか。
momoune:ボードゲームって、パッケージにルール制作者だけでなく、アートワークやデザイン担当者の名前も大きく載るんです。これまでは裏方の仕事が多くて、自分の名前が出せない案件や、実績として公表できない仕事もたくさん経験したので……きっと「自分の名前を出して評価されたい」「目立ちたい」という内なる野心みたいなものが、溜まっていたんだと思います(笑)。本当はボードゲームに限らず、雑誌の編集者さんやライターさん、DTPや印刷工場の人たちも、もっともっと評価されるといいなと思っています。
「いつか自分でゲームを一から作ってみたい」
――今後、手掛けてみたいゲームはありますか?
momoune:ルールは作れないと言いながらも、「いつか自分でゲームを一から作ってみたい」という思いは昔からずっとあって、アイデアをメモしたりはしているんです。でも、テスト会に行けば行くほど「自分一人でやるのは無理すぎる」と思っちゃうんですよね。皆さんの発想力を見て「なんでこんなこと思いつくんだろう」と圧倒されちゃって。自分には到底真マネできない、作り手の皆さんへの尊敬の念が深まるばかりで……。
――ちなみに、頭の中にはどんなアイデアが?
momoune:昔から工場が好きで、「工場を建てて写真を撮るようなゲームを作ってみたい」と思っていたんですが、この間スクウェア・エニックスさんの『ファイナルファンタジーVII神羅ビルを登れ』(11月発売予定)というゲームに携わることができたので“工場欲”が解消されて燃え尽きちゃったんです(笑)。ただ、今度は地元に「(富山高山)すし空港」という空港ができたので、“すし空港”をテーマにしたボードゲームを作ってみたいなと、密かに妄想しています。
2026年11月に発売予定の『ファイナルファンタジーVII 神羅ビルを登れ』のモック
――実現が楽しみです! 最後に、制作活動においてご自身の軸にしていることを教えてください。
momoune:実は自分自身の“軸”や明確な“作風”を持たずにやってきたので、それが長年の悩みでもありました。もともとアニメーター志望で「いろんな絵が描けないとダメだ」と思ってスタートしたのもありますし、地方の会社にいた頃も、絵を描ける人がほかにいなかったので「今回はこのテイスト、次はこれ」と毎回違う雰囲気を求められてきたんです。ただ、経験を重ねる中で、今では「軸を作るというより、嫌なことはやらないようにしよう」と思うようになりました。極端にリアルなテイストだったり、流血するもの、誰かが辛い目に遭うものは自分に合わないので、そういった表現を削ぎ落としていくというか。
――苦手な作風のものは、横のつながりのある「得意な方」に紹介するということですね。
momoune:そうですね。ただ、「ギリギリ得意かも?」と思えるラインの作品は引き受けて、逃げずにやり切っています。ボードゲームに関してはまだまだ得意分野も分からない状態ですし、デザインやイラストの仕事はずっと一人で作業するので、ときには息が詰まることもあります。でもテスト会やイベントに集った方々とお話しできるのが本当に楽しい(笑)。そういうところも含めて、この世界に飛び込んでよかったとずっと思えるよう、これからも楽しみながら続けていきたいと思っています。
