根津工房

Author : Nezu Ryuichi Artworks : Nezu Yumi

Amuletteができるまで ―ルール設計者の視点―
2025/5/10 12:38
ブログ

「Amulette -アムレッテ-」という一つの小さなカードゲームを作る過程を、ルールを設計するゲーム作家としての視点で書いてみようと思う。

 

はじめにルールありき

「はじめにルールありき」、私たちはこの原理に従ってゲームを作っている。世界観やアートワークも大切だが、何よりもまず、ゲームには面白いルールが必要だ。

 

ゲームの土台を定める

当初はすごろくを作ろうとしていた。アイデアはいくつかあったが、結論から言うと、あまりうまくいかなかった。すごろくがもつレースゲームとしての楽しさを活かすことができなかったのだ。ただ、その過程で生まれた「止まったマスに対応したカードを獲得して、ポーカーのような役を作る」というアイデアが気に入った。というのも、役を成立させるという目的をもって、カードを集めていくことが楽しかったからだ。そこで、すごろくのことは忘れて、ポーカーライクなカードゲームを作ることに決めた。

 

ルールの幹を構想する

ルールには幹があり、枝葉がある。幹の部分がしっかりしていれば、枝葉は整えるだけで良い。アムレッテの幹となるルールは、以下の通りだ。

①    5スート・12ランクの2人用ポーカーゲームである。

②    手札から自分の場にカードを1枚出し、山札からカードを1枚引く。これを繰り返して役を揃えていく。

③    共通の場に数枚のカードがあり、これらのカードは手札の同じスートか同じランクのカードと交換できる。

 

 ①と②は基本ルールとして重要だが、これだけではオリジナリティがあるとは言えない。このゲームにおいて最もオリジナルな要素があるのは③のルールだが、共通の場というアイデア自体は全然新しいものではなく、ライナー・クニツィアの名作「ロストシティ」に着想を得ている。では、どこにオリジナリティがあるのか。それは、カードを交換できる条件だ。ポーカー役を作るためには、カード5枚のランク(数字)かスートを揃えなければならないが、このルールはあえてそれを難しくしている。たとえば、ハートのフラッシュ(同じスート5枚の役)を揃えようと思ったら、共通の場にあるハートのカードが喉から手が出るほど欲しいだろう。だが、そのカードを手に入れるには同じスートか、同じランクのカードが必要だ。同じスートのカード(つまりハートのカード)と交換しても意味がないから、同じランクのカードが必要になる。しかし、同じランクのカードは全部で5枚しかないので、そう都合よく手札に持っているとは限らないわけだ。

 また、共通の場のカードは、このゲームで唯一のインタラクティブな要素だ。自分が欲しいカードは、先に相手に取られてしまうかもしれない。あるいは、逆に相手の欲しいカードがわかれば、相手の動きを妨害することもできる。

 ここまで構想を練ったところでようやく、このゲームは形になるという手応えを得ることができた。ちなみにこの段階でのテストプレイは、一人回しをする時間が圧倒的に長い。初めは頭の中で動かしてみて、よさそうだったら実際にカードを触ってみるという具合だ。

 

アートワークを依頼する

ルールの幹が定まったところで、アートワークについて考え始める。根津工房のアートワーク担当はもちろん、Nezu Yumiだ。身内だが、依頼は具体的に行うように心がけている。アムレッテのアートワークに関して、私が依頼した内容は以下の通りだ。

①    12種類の宝飾品であること

②    12種類が等価で、1連のシリーズとして感じられるものであること

③    カードには額縁のようなフレームがあること

 

 ①と②は「集めたくなるもの」という指針に従って導き出されたアイテムだ。③は私の譲れないこだわりで、素晴らしい絵画には適切な額縁が必要である、という思想によるものだ。ゲームのイラストに対して大げさな考えだと思われるかもしれないが、私は真剣だ。カードの中に芸術を封じるには、内外の境界をはっきりさせる額縁が必要だと、私は思う。

 これらの依頼をもとに、より具体的なモチーフについてYumiと二人で話し合い、最終的に「大きな宝石が嵌められた、小さなアミュレット」が主題に決まった。アートワークに関して、私が介入するのはカードサイズと化粧箱のサイズを決めるところまでだ。意匠についての詳細は、Yumiの領分になる。私にはない特別な才能に委ねて、あとは完成を待つだけだ。

 

ルールの枝葉を整える

アートワークの完成を待つ間、ルールの細部を詰めていく。アムレッテにおいて、調整が必要だったルールは以下の通りだ。

①    役の得点

②    手札・共通の場札の枚数

③    共通の場札のカードをもっと流動的にすること

 

 ①は最も単純で、最も難しいところだ。最初は単純に山札から5枚引いたときに役が成立する確率をもとに役のランクをつける。だが、単純に5枚引くゲームではないので、結局のところ、ひたすらテストプレイを繰り返して得点を決めるほかない。②と③はセットで考える必要がある。なぜなら、③のルール次第で、②の適切な枚数も変わるからだ。③に関して言えば、当初のルールでは手札のカードと共通の場札のカードを単に入れ替えていたので、共通の場札には不要なカードが溜まりがちになり、場札があまり流動的にならないという問題があった。そこで、手札のカードはその代わりに捨札にして、共通の場札の空いたスペースには山札の上から1枚カードを置くようにした。常に山札から新しいカードが1枚増えるので、共通の場札の流動性が増し、ゲームのインタラクションがより活発になった。②の枚数については、いずれも5枚で落ち着いた。他にも細かな調整はいくつも必要だったが、主要な調整については、概ね説明できたように思う。

 

1人プレイのルールを調整する

ルールの枝葉を整えている途中で、1人プレイができる可能性が見えてきた。というのも、上述の③のルール調整により、共通の場札に常に新しいカードが供給されるようになったからだ。つまり、対戦相手がいなくても、プレイヤーが場札からカードを1枚手札に加えれば、必ず山札からカードが1枚めくられることになるので、1人プレイでも手番ごとに十分な変化が生じるようになったと言える。しかし、以下の3つの問題があった。

①    完成する役の量が多すぎて、ゲームが冗長になること

②    終盤に残りの山札のカードがすべてわかってしまうこと

③    勝利条件が定まっていないこと

 

 ①と②については、たった一つのシンプルな手段で解消することができた。すなわち、最初に山札からランダムに20枚のカードを抜くという手段だ。これにより、ゲームの長さは丁度良くなり、残りの山札のカードもわからなくなった。③については、3回のラウンドの合計得点を勝利条件に定めることにした。単にハイスコアを目指すというルールもわるくないが、「この得点に到達すれば勝利」という明確なゴールがある方が面白いだろうと考えた。もし序盤に運よく大量得点できれば、中盤以降は手堅い役を狙うだろう。あるいは、終盤に大量得点が必要になれば、あえて難しい役を狙うことになるかもしれない。このように、ゴールが明確だからこそ、プレイングも状況に応じて変わってくるのだ。

結び

なんだか大学の講義のレポートみたいな文体になってしまったが、アムレッテは決して小難しいゲームではなく、単純な楽しさの詰まったゲームだ。高得点の難しい役を狙うか、そこそこの得点の手堅い役を狙うかというジレンマ。相手の狙いを読み、先回りして妨害するという面白さ。そして何より、カードを集めて強い役が揃ったときの気持ちよさ。実際に遊んでみて、こういう楽しさをぜひ体験してみてほしいと思う。もし何か感想をいただけることがあれば、それは私たちにとって望外の喜びである。

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