S.T.E.L.L.A.B. @__STELLAB__
ゲームマーケット2020秋
磁石でスイングバイを再現した物理アクションゲーム
「バック・トゥ・ジ・アース」を頒布させていただきます!
是非遊びに来て下さい(˘ω˘)
- バック・トゥ・ジ・アース デザイナーズノート
- 2021/1/25 15:43
こんにちは!
科学的ボードゲーム研究所 S.T.E.L.L.A.B.と申します。
この記事は、スイングバイを再現した物理アクションゲーム
「バック・トゥ・ジ・アース」がどのように生まれたかを記す
いわゆるデザイナーズノートとして作成しました。
本作品に興味を持っていただいた方やこれからボードゲームを作成したいと考えている方の助けになれば幸いです。
★「バック・トゥ・ジ・アース」作成のきっかけ
僕ことS.T.E.L.L.A.B.は以前、stella createsというサークル名で活動し、
「Color Wars」という陣取りゲームでゲームマーケット2019大阪にて初出展しました。
その後、第2作の開発に取り組むにあたり、作成するボードゲームに何か統一性を持たせることはできないかと考えました。
ここで言う統一性とはサークルのブランディングのことを意味しています。
すなわち、このサークルと言えば何々のような特徴が欲しいと考えました。
僕は大学・大学院時代と天文学・宇宙物理学を専攻しており
また、第2作目の開発当時の2019年は宇宙テーマのボードゲームが散見されました。
例)
※2019年当時は発売予定の告知のみ
この2つを踏まえて、当サークルを「宇宙テーマのボードゲーム」のサークルにすることに決めました。
さらに、そのことを分かりやすくするために、サークル名をstella createsから
Scientific(科学的)
Tabletop game for(ボードゲーム)
Education &(教育)
Leaning(学習)
LABoratory(研究所)
の頭文字を取り、S.T.E.L.L.A.B.とし気持ちを新たにして宇宙テーマのボードゲーム作成に取り組みました。
★マーケティング
何事もそうですが、物事は入り口ではなく出口が重要だと考えています。
ここで言う出口とは作成したボードゲームを頒布することを示しています。
すなわち、宇宙テーマのボードゲームを作成して終了ではなく、頒布するまでが一つのゴールということです。
そのためには、「誰に」「何を」「いつ」「どこで」「どのように」頒布するかを考える必要があります。
・「いつ」「どこで」「どのように」
これは比較的簡単な問題です。
僕の場合は
・開発に最低1年は必要であること(開発開始は2019年4月ごろ)
・愛知在住であり、交通費を節約する意味で頒布会場が遠くないこと
の2条件より2020年ゲームマーケット大阪に頒布することを目標に作成に取り組みました。
※2020年ゲームマーケット大阪はCOVID-19の影響で延期となり、実際には2020年ゲームマーケット秋の出展になりました
・「誰に」「何を」
こちらの方がより重要になります。
上記より、「誰に」はもちろんゲームマーケット参加者(とくに出展者ではなく一般参加者)です。
そこで一般参加者について調査した結果、ほぼ半数である約42%がゲームマーケット初参加であるライト層であることが分かりました。(2018年ゲームマーケット大阪アンケート調べ N212)
そのためルールが複雑でプレイ時間が長く、コンポーネントが多い、いわゆる重ゲーの開発は避けるべきだと判断しました。(そもそも重ゲーはアマチュアで開発を行うには調整する要素が多く、またコストも高くなるため、開発が難しいと聞いたことがあります)
そこで、比較的ルールが簡単かつ、ライト層がとっつき易いであろう【物理ゲーム】を主幹としたボードゲームにしようと決めました。
★作品のモチーフ
一口に宇宙テーマのボードゲームといっても様々なモチーフがあると思います。
例えば上記に挙げた3例の場合は
→プレイヤーは火星へ投資する企業となって火星を居住可能(テラフォーミング)する
→宇宙船を航行させて、惑星でコロニー建設、他星人との交流、宇宙海賊と戦闘等、宇宙での開拓を行う
→宇宙船に忍び込み、お宝を持ち帰る
前述したように、僕の場合は「宇宙×物理ゲーム」という組み合わせで不自然でないモチーフを選定する必要があります。
また、マニアックすぎるモチーフにした場合、ターゲットであるライト層がモチーフからゲームの全容を掴むことが難しくなるのではないかと懸念していました。
そこで映画「はやぶざ」で登場した宇宙の物理現象であり、比較的馴染みがあるであろう
【スイングバイ】をモチーフにすることに決めました。
※スイングバイとは
惑星の重力を利用して宇宙機(人工衛星など)の軌道を修正することで
限りある燃料を節約するための技術です。
映画「はやぶざ」は比較的有名な映画であり、人工衛星が地球を旅立ち戻ってくるという構図は
イメージしやすいと判断し、スイングバイをモチーフにすることに決めました。
★スイングバイの再現方法
まずボードゲームにてスイングバイをどのように再現するかを考える必要がありました。
インターネットで再現方法を調べた結果、以下の2つの手法を見つけました。
いずれも【金属球】+【磁石】を用いて再現しています。
結果としてNGKサイエンスサイトの手法は金属球の軌道がスイングバイに大きく影響を与えるため、シビア過ぎてボードゲームとして成立しない可能性が高いと感じました。
一方でガリレオ2の方は惑星の側面に磁石に金属球を当てるように狙いを定めればよく、再現に用いる惑星が立体的でありSNS映えもし易いと考えたため、こちらの方法を採用しました。
さて採用するといいましたが、上記のようなオモチャは一般的に流布していません。
調査や検討を重ねた結果
【トイカプセル】+【小麦粘土】+【磁石テープ】で比較的安価に代用できるのではないかと気づきました。
加えて、トイカプセルと小麦粘土を用いてプレイヤーにオリジナル惑星を作ってもらうのも独自性があり面白いとも思いました。
さらに、トイカプセルの上部に穴が空いていたので、スイングバイした惑星に旗を立てたら面白いのではないかという発想も生まれました。
個人的には本ボードゲーム作成における最も大きなブレイクスルーだったと考えています。
その後、AmazonとDAISOで上記の物を購入し、モックの作成を行いました。
・小麦粘土
・金属球
・磁石
上記のモックを用いたテストプレイの写真@名古屋テストプレイ会がコチラです。
荒削りですが、この段階で本作品の基幹部分であるスイングバイの再現の基礎は出来ました。
★デベロップ
デベロップは大きく分けると4段階ありました。
●第1段階
とりあえずスイングバイ自体は再現可能だと分かったため
ゲームにするために最低限度のルールを作ることにしました。
ゲームの初期ルールとしては
・地球(写真中央右の丸いカード)より手前の好きな位置から衛星(金属球)を発射する
・発射した衛星が地球にスイングバイして戻ってきたらスイングバイ成功とする
→成功した場合:プレイヤーカラーの旗(ピンで代用)を惑星に立てる。その後、その惑星を動かす。
→失敗した場合:もう1回チャレンジできる
・上記を繰り返し、手持ちの旗を全て立てた人の勝利
のような単純な物だったと思います。
実際にテストプレイをしていただき、以下のような問題点が分かりました。
・地球上から衛星を発射しないのはテーマとの相違を感じる
・惑星が動く方向や動く量がプレイヤーによってまちまちになってしまうことが気になる
という点です。(他にも色々とアドバイスをいただきましたが、特にこの2つが重要だと思いました)
●第2段階
第1段階の反省点を踏まえて以下のようなゲームボードを作成しました。
どのように使用するかと言うと、
・青/黄/赤の丸型のマークにそれぞれ惑星を初期配置する
・ラウンド終了毎に▲の方向にある同じ色の丸型マークに惑星を動かす
そうすることによって、プレイヤーごとに惑星の移動量や方向が異なる問題を解消しました。
また、惑星の移動に何か意味を持たせたいと考えました。
そこでスイングバイ成功時の惑星の位置によって得られる勝利点に変化を持たせるようにしました。
(結局、ややこしいだけだったので最終的に削除しました)
また
・衛星を地球(写真中央下)から発射するようにした
それに伴い、衛星が地球を地球から発射し、地球に戻ってきたらスイングバイ成功とするようにルールを変更しました。そうすることでゲームの雰囲気を壊さないことが出来たと思います。
この段階で基礎的なルールが出来たと思います。
しかし、以下のような問題点も明らかになりました。
・衛星が地球に戻ってきたかどうかの判定が分かりづらい
(第2段階では目視で衛星が地球のイラスト上を通ったかどうかで判定していました)
●第3段階
第2段階で発見した問題点を解決するため
厚みのある円形の木材の側面に衛星と同じ磁石を巻きつけて、その上に地球のシールを貼ったコンポーネントを作成しました。
(段階が進むたびにコンポーネントが増えて製作費が増えているのは見て見ぬふりです)
そうすることで、衛星が地球に戻ってきた際に「地球の側面の磁石に引っ付いたかどうか」で
明確にスイングバイの成功を判定できるようになりました。
●第4段階
スイングバイの再現という意味では第3段階でほぼほぼ完成しました。
そのため、この第4段階ではゲームのルールの改良を行いました。
基本的な方針としてゲームの雰囲気を保ちつつ、よりボードゲームらしくなるようなルールにするように心がけました。
具体的には
・惑星ごとにスイングバイ成功時の点数にバラつきをもたせる
→地球から遠い惑星の方がスイングバイの難易度が高いので勝利点(VP)を高くする
・ゲームの見通しをよくする(小目標を作る)
→手番の最初にサイコロを振り、出目の色に対応する惑星でスイングバイ成功時にVPを加算する
・なるべく全3つの惑星全てのスイングバイに挑戦してもらえるようにする(大目標を作る)
→全ての惑星でスイングバイ成功した場合にVPを加算する
をルールに組み込みました。
これらを実現するために必要になったゲームボードはこんな感じです。
また、余談ですが当初は惑星毎のVPをそれぞれ1VP、2VP、3VPとしていました。
しかし、3VPの惑星は1VPの3倍難しいわけではないので価値としておかしいとの指摘を受けたため
3VP、4VP、5VPへ変更しました。こうすることで、それぞれ1VPの差であることを維持しながら、価値の不平等感を無くすことが出来ます。(比較的メジャーな手法らしいので、ご参考までに)
ついでに惑星に立てる旗もカッコよくしたいという衝動に駆られたため、以下の2つをAmazonで購入しました。(製作費?知らない子ですね・・・)
・旗
旗の両面に星形シールをペタペタ貼っていきました。
★完成!
最終的な「バック・トゥ・ジ・アース」の完成図はコチラです。
・プレイイメージ図
・コンポーネント一覧図
★反省点
以下に本作品の反省点を書いていきます。
・スイングバイ成功の難易度が想定より高かった
→テストプレイ時にはあまり気にならなかったのですが
完全初見のプレイヤーがやると最初の3回くらいは失敗する場合が多いと後に分かりました。
・本作品は量産に不向きだった
→磁石をカプセルと地球に貼り付ける作業/ 旗に星形シールを貼り付ける作業/ 小麦粘土12個を小分けの袋
に詰める作業は手作業なので、システム開発以外の部分にかなりのリソースを要します。
そのため、50個のみ生産し、印刷物(化粧箱/説明書/ゲームボード)を余らせることになりました。
(ゲムマ2020大阪50個頒布→再生産→2020ゲムマ秋50個頒布という計画はCOVID-19の影響で叶わず)
・もう少しシステムを改善したかった
→初心者にフォーカスした分、かなりシンプルなゲームになりました。
悪くはないですが、難しくならない程度にもう少し工夫できたらよかったなと思いました。
★感想
アマチュアで物理ゲームを作成するのはかなり大変だということが分かりました。
例えば3Dプリンターを利用すればかなり手間を抑えることができるかもしれません。
とくに本作品の場合は、ハンドメイドのコンポーネントが多く、時間がかかるだけでなく、品質が不均一になっていないかが気がかりでした。(とくに磁石をひっつけるための接着剤が剥がれないか心配でした)
しかし、荒削りながらも「小麦粘土でオリジナル惑星を作る」「スイングバイが成功すると気持ちいい」「惑星に旗を立てるの楽しい」という3点の面白さを本作品で表現できたかなと思っています。
★謝辞
本作品の作成は「名古屋テストプレイ会」、「小牧テストプレイ会」の皆様のお力添えがなければ成り立ちませんでした。また、「なつき屋」さまには本作品のロケットについて何度もプロトタイプを作成していただき、根気強くお付き合いいただきました。さらに、前作でもお世話になった「みのすみす」さまに描いていただいた可愛いイラストは本作品のターゲット層に非常にマッチしていたと思います。本作品の作成にあたり、ご助力いただいた皆さまに心から感謝いたします。本当にありがとうございました。