Laro Games https://x.com/larogamesstudio
- 『Tricks of the Engkantos』デザイナーズダイアリー Part 1 ~フィリピンの伝承に登場する不思議な存在たち~
- 2026/10/9 0:39
Tricks of the Engkantos — デザイナーズダイアリー Part 1
こんにちは!『Tricks of the Engkantos』のデザイナー、Justin Aguinaldo(ジャスティン・アギナルド)です。
今回のデザイナーズダイアリーでは、このゲームがどのように生まれたのか、特にゲームの着想のもとになった、不思議で神秘的な存在たちについてお話ししたいと思います。
フィリピンの民間伝承には、「エンカント(Engkanto)」と呼ばれる超自然的な存在が登場します。
エンカントは自然界に棲むとされる存在で、その物語は何世代にもわたって語り継がれてきました。美しい姿をしていたり、いたずら好きだったり、人間を助けてくれたり、時には恐ろしい存在だったり。その性格や行動は、物語によってさまざまです。
私も子どもの頃、叔父や叔母、祖父母、そして周りの大人たちから、こうした不思議な存在についての話をたくさん聞いて育ちました。
怖い話もあれば、奇妙な話もありました。でも、どれもとても興味深いものばかりでした。
子ども心に、よくこんなことを考えたものです。
「この不思議な存在たちは、本当にいるのだろうか? それとも、子どもを怖がらせるために作られたお話なのだろうか?」
こうした不思議な存在については、まだまだたくさんのお話があるのですが……それはまた別の機会に!
『Tricks of the Engkantos』の制作を始めたとき、私が大切にしたかったことがありました。
それは、これらの存在を単なるカードのイラストとして登場させるのではなく、それぞれの個性や不思議な力を、実際のゲームプレイを通して感じられるようにすることです。
そして、これがゲームデザインの中心となるアイデアのひとつになりました。
「それぞれの超自然的な存在が固有の能力を持ち、その力によってトリックの展開が変わる」
今回のPart 1では、ゲームに登場する超自然的な存在と、特別な力を持つ人間たち「ミスティック」を紹介しながら、その背景にあるフィリピンの民間伝承について少しお話ししたいと思います。
登場キャラクターを選ぶ
このゲームには、5種類の超自然的な存在と、2人のミスティックが登場します。
フィリピンの民間伝承には、ほかにも数えきれないほど多くの不思議な存在や妖怪のような生き物が登場します。
その中からこの5種類を選んだのは、見た目や伝承がそれぞれ特徴的で、ゲームの中でも異なる個性を表現できると感じたからです。
一方、2人のミスティックは少し異なります。
彼らは超自然的な生き物ではなく、不思議な力を持つ、あるいはそうした力についての知識や技術を持つとされる人間です。
その力は、人を癒やしたり守ったりするために使われることもあれば、呪いや災いをもたらすために使われることもあります。
それでは、ゲームに登場する7つのキャラクターを紹介しましょう。
アスワン(Aswang)
フィリピンの民間伝承の中でも、おそらく最も有名で、そして最も恐れられている存在のひとつです。
実は「アスワン」という言葉は、特定の一種類の怪物を指すものではありません。
姿を変える能力を持つもの、魔術を使うもの、夜になると人間を襲うものなど、さまざまな恐ろしい存在をまとめてアスワンと呼ぶことがあります。
地域によって語られる姿や特徴も大きく異なり、それがアスワンの不気味さと神秘性をさらに深めています。
フィリピンで育った人なら、一度はアスワンの話を聞いたことがあるのではないでしょうか。
バクナワ(Bakunawa)
フィリピン神話に登場する、巨大な蛇、あるいはドラゴンのような姿をした存在です。
特に有名なのは、月にまつわる伝説です。
伝説によると、バクナワは海から現れ、空に浮かぶ月を飲み込もうとするといわれています。
昔の人々は、この物語によって月食を説明していたとも伝えられています。
また、バクナワが月を飲み込もうとしたとき、人々は大きな音を立てて追い払い、月を救おうとしたという話もあります。
ゲームに登場するキャラクターの中でも、ひときわ巨大で迫力のある存在です。
ディワタ(Diwata)
ディワタは、森や山、川、古い大木など、自然や特定の場所と深い関わりを持つ精霊のような存在です。
美しく、強い力を持つ存在として描かれることが多く、敬意を持って接する人間には恵みを与える一方で、自然を荒らしたり、自分たちの住む場所を乱したりする人間には災いをもたらすこともあるといわれています。
他の文化でいう「妖精」や「自然の精霊」に近い存在かもしれません。
ただし、フィリピンのディワタには、この国ならではの独特な伝承や特徴があります。
カプレ(Kapre)
カプレは、巨大で、黒っぽい体に毛が生えた人間のような姿をした存在です。
大きな木、特に古いバレテの木に棲んでいるといわれています。
カプレの最も有名な特徴のひとつは、大きな葉巻を吸うことです。
見た目はとても恐ろしいのですが、必ずしも邪悪な存在として描かれるわけではありません。
むしろ、いたずら好きな一面があり、旅人をからかったり、道に迷わせたり、混乱させたりする話がよく語られています。
もし大きな古い木の近くで、誰もいないはずなのに突然葉巻の煙の匂いがしたら……。
あまり上を見ないほうがいいかもしれませんね。
ティクバラン(Tikbalang)
ティクバランは、馬の頭と脚、そして人間の体を持つ、背の高い不思議な存在です。
特に有名なのは、旅人を道に迷わせるいたずらです。
知らない道へ誘い込んだり、どれだけ歩いても同じ場所に戻ってきてしまうように仕向けたりするといわれています。
カプレと同じように、ティクバランも単なる恐ろしい怪物というわけではありません。
いたずら好きで、何をするか分からない気まぐれな性格こそが、この存在の大きな魅力だと思います。
ミスティックたち
最後の2人は、超自然的な生き物ではなく、人間です。
マンククラム(Mangkukulam)
マンククラムは、「クラム(Kulam)」と呼ばれるフィリピンの民間呪術を使うとされる人物です。
クラムは一般的に、呪いや魔術、他人に害を与える超自然的な力と結びつけて語られています。
マンククラムにまつわる話には、恐ろしいものも少なくありません。
相手の持ち物や特別な儀式、さまざまな呪術を使って、遠く離れた相手にも影響を与えることができるといわれています。
このように、不思議な力で他人に影響を与える存在は、ゲームの能力を考えるうえでも、とても面白い可能性を持っていました。
アルブラリョ(Albularyo)
アルブラリョは、マンククラムとは対照的な存在です。
フィリピンの伝統的な民間療法を行う治療師で、薬草やマッサージ、祈り、儀式、そして精神的・霊的な方法などを用いて、病気や体の不調を癒やすとされています。
地域や伝統によってその役割は異なりますが、薬草の専門家、治療師、そして霊的な力を扱う人物といった、いくつかの側面を併せ持っています。
つまり、ゲームに登場する2人のミスティックは、一方が「呪いや人に害を与える魔術」、もう一方が「癒やしと守護」に関わる存在なのです。
この対照的な特徴は、7つのキャラクターそれぞれの能力を考えるうえで、とても重要なヒントになりました。
民間伝承からゲームへ
キャラクターを選ぶことは、デザインの第一歩にすぎませんでした。
次の課題は、それぞれの個性を、実際のゲームプレイでどう表現するかということでした。
神秘的なディワタと、いたずら好きなティクバランを、どうすれば違った感覚でプレイできるようになるだろう?
月を飲み込むといわれるバクナワの力を、たった1枚のカードの能力でどう表現すればいいだろう?
そして、マンククラムとアルブラリョという対照的な2人のミスティックを、どうすればそれぞれ違った能力として表現できるだろう?
こうしたことを考える時間は、『Tricks of the Engkantos』をデザインする中でも、特に楽しい部分のひとつでした。
次回のデザイナーズダイアリー Part 2では、これらの伝承やキャラクターの個性を、どのようにして7つの固有能力へと落とし込んでいったのか、そしてその能力がトリックテイキングのシステムにどのように組み込まれていったのかをお話ししたいと思います。
Part 2へ続きます!
