ゲームマーケット大賞2016 選考を終えて 審査員寸評
2016/12/20
お知らせ



■審査員長 草場純






昨年に続いて審査委員長を務めさせていただいた草場です。今年は昨年にも増してレベルが上がったと思いますが、逆に飛び抜けた作品がないとも言えました。しかしその中でも、大賞の『ビンジョー×コウジョー』は特に楽しむことができました。それは自分の手番以外にもやることがあるからです。他人の手番にも工場の時計は進み、他工場の発注にも便乗できます。ですから他の工場の設備を睨みつつ、自分の工場の設備投資をし、来るべき注文に備えるのは、「他人の引きにも期待する」という面白さをかもします。
特別賞にさせていただいた『アニュビスの仮面』は、新しい体験を味わえました。授賞式で述べましたように、これをアナログゲームと言ってよいかという問題はありながら、時代の趨勢を見越した新たな可能性の先駆けと見て、特別賞といたしました。その点は優秀作の『たのめナイン』にも一脈通ずるものがあり、アプリがあると遊び易いというのは、これからの一つの方向なのかも知れません。その意味で、かわいいイラストの『ちんあなごっこ』は、純粋なアナログゲームとしてよくできていると思いました。バッティングゲームですが、親のプレーの要素は新しく感じました。『横濱紳商伝』はレベルの高い、大賞でもおかしくない作品ですが、要素も多く、流石にボードゲームを始めて間もない人には難しいでしょう。同様に、『幽霊島の殺人』は『クルー』と「人狼」と『ディプロマシー』と『ハグル』の良いとこどりのような優れたゲームですが、8~16人というプレーヤー人数は、一般向けとは言い切れませんでした。
優秀作以外では、『トリックオブスパイ』がトリックテイキングに推理の要素を絡めた秀作と思いました。また『狩歌』は、ゲームはアイディアだと思わせる傑作と感じました。それから『ガラクタオークション』のブラフ的な味わいや、『Cinecitta1937』のやり取りも面白く感じました。『似顔絵探偵』も、大いに楽しませてもらいました。
また一次審査には残りませんでしたが、『ケルベロス』は、たった3種類のカードだけというシンプルさが、とても私好みでした。


■審査員 秋山真琴






昨年に引き続き、今年も審査員を務めさせていただきました秋山です。皆さん、こんにちは。
初めての開催となった昨年は、どのような基準で評価するかという点において多くの議論を重ねたため、今年はスムーズに決められるのではないかと予想していましたが、実際には昨年と同じく、あるいは昨年以上に頭を抱えることになりました。と言うのも、各作品のレベルが大幅に向上していたからです。二次審査以上の作品は見方をひとつ変えるだけで、大賞になりえたと思い、ほんとうに僅差であったと思います。
そんな中で『ビンジョー×コウジョー』はゲーム中の盛り上がりにおいて光るところがありました。自分だけの工場を作る楽しさもさることながら、便乗できる機会が訪れると挙手する必要もないのに、思わず手を挙げて「はいっ、便乗します!」と大声をあげてしまうのです。年齢や性別の壁を越え、より多くの方が楽しめる作品はどれか? を考えたとき、この結論に至りました。
ひとによって「面白い」は異なるという話は、前回のコメントにも書かせていただきましたが、今回も単一の尺度で見るのではなく、優秀作品以上の作品は、それぞれの方向性に特化した傑作であると考えています。来年度からはエキスパート賞とキッズ賞という部門賞が設けられますが、もちろん独自の文脈にある作品も評価させていただきたく存じます。引き続き、よろしくお願い致します。

■個別の講評

ビンジョー×コウジョー』以外の作品についてコメントさせていただきます。
優秀作品の『たのめナイン』は一押しの作品です。直感的で分かりやすいルールであるため、説明に要する時間が最小限で済み、すぐに遊びはじめることが可能です。手軽であり、また運要素も大きくはありますが、考えどころもしっかりと用意されており、的を射たゲームです。
ちんあなごっこ』は可愛らしいイラストに、みんなが大好きなうんちいっぱいのバッティングゲームです。和やかな見た目に反し、他プレイヤの動向を注視して、その動きを予想しなければならないため、意外に硬派とも言えます。
昨年、優秀作品に輝いた『ミネルウァ』を越えるのは難しかろうと思っていましたが、OKAZU brandさんの新作『横濱紳商伝』は、その完成度や面白さにおいて見事に上を行っていました。海外における実績も築かれていますし、名実ともに日本を代表するゲーマー向けゲームと言えるでしょう。
推理とコミュニケーションの要素を組み合わせた『幽霊島の殺人』は、1960年代に発表された『ハグル』を現代風にリデザインした作品とも言え、他のボードゲームにはない斬新な作品です。このゲームでしか体験できないという点において、見逃せない一作であると感じました。
VRの技術を用いて協力ゲームを実現させた『アニュビスの仮面』は、デジタルとアナログの融合という点において、ボードゲームの歴史に名を残す作品であると思います。この作品に端を発する形で、新たなる時代の幕が上がることを期待します。

二次審査通過作品の中では『似顔絵探偵』が非常に優れたパーティゲームです。証言を元に似顔絵を描き、容疑者を探し求める第1ゲームもさることながら、繰り返し遊ぶことで蓄積した似顔絵を使ってカルタを遊ぶという第2ゲームの発想が見事と言わざるを得ません。お絵描きゲームの場合、絵を描くのが苦手な方は忌避感を覚えるのが常ですが、その下手さを笑いの種にするのではなく、ゲームの中に組み込んで逆にヒントとして活かすという工夫にデザイナの深い気遣いを覚えました。
私自身の好みという観点では『ソラシノビ』が、とても面白かったです。銀河を股にかけ、様々な惑星で暗躍する忍者というフレーバーも良いですが、ワーカープレイスメントやエリアマジョリティといったボードゲームの要素がきちんとゲームの形に落とし込まれており、一時間以内で終わるという収束性も魅力です。
硬派なゲームという観点では『ガラクタオークション』です。素朴なイラストにシンプルなコンポーネントですが、極めて奥深く、繰り返し遊びたくなる通好みの一作です。

一次審査通過作品の中では『Bidders!』が、噛めば噛むほど味わいのある傑作です。一回、遊んだだけではとうてい見極められない、渋く奥深いゲームを遊びたいときは最適な選択肢でしょう。
TCGの要素を持ちながら陣取りの要素を持ち、驚くほどボードゲーム然としている『Twelve Heroes』も私のお気に入りです。
協力ゲームの面白さをシンプルにまとめた『バハムートゲート』も良い作品です。次のボスが封筒に入っていて確認できないというのも憎い演出です。


■審査員 小野卓也






ゲームマーケットの拡大と進化は想像以上に早く、ドイツでは30年経って顕在化した嗜好の多極化が、日本ではその半分の15年ですでに発生している。ライトからヘビー、2人用から多人数用まで、好みが激しく分かれる現状で、「なるべく多くのゲームマーケット来場者に楽しんでいただける作品」というのはどういうものか、審査員一同頭を抱えた。審査員は自分が好きなゲームと、他人に薦めたいゲームを区別して審査するべきだが、572タイトルという膨大な新作を前に逡巡した結果、前者の視点を多く取り入れることになった。
大賞の『ビンジョー×コウジョー』は工場設備時の悩ましい選択と製品受注時のライトな盛り上がりを見事に両立した作品。オリジナリティだけでなく、設備の配置や投資の切り替えに戦略の幅もあり、繰り返しプレイするに値する。
優秀作品の『たのめナイン』は中毒性の高いカードゲーム。居酒屋の会計を押し付け合うというテーマに会話も盛り上がる。カードの選択にちょっとした考えどころを用意してあるところも憎い。『ちんあなごっこ』は、子どもも理解できる簡単なルールながら、大人が遊べば読み合いが熱くなって全く別の展開が楽しめる。リスクとリターンのバランスを変えることで、読み合いがさらに悩ましくなる。この2タイトルは、初心者にぜひ手にとってもらいたい作品だ。
人狼を遊ぶぐらいの人数なら、ゲームマスターが別室に一人ひとり呼び出す進め方がスリルを生み出す『幽霊島の殺人』、中級者以上は『横濱紳商伝』で戦略と展開の多様性を味わってほしい。


■審査員 ふうか






皆様こんにちは。今回より審査員を務めさせていただきました、ふうかと申します。普段はボードゲームのプレイ日記を書いております。よろしくお願いします。
今回、審査員を務めるにあたって、まずは「ゲームマーケット大賞」に対する自身の明確なビジョンを探すところからはじめました。個人の感想を書き連ねることは簡単ですが、決められた枠組みの中で作品を審査するということは、自分の中で揺らぐことのない柱が必要だと考えたためです。そして自分なりに見えたつもりでした。ところが、審査期間中は大いに迷い、そして悩むことになります。年々水準が上がっている新作はバラエティに富み、いずれも素晴らしい作品だったからです。中でも優秀賞作品は、どの作品が大賞を受賞してもおかしくありませんでした。
大賞を受賞した『ビンジョー×コウジョー』について述べさせていただけば、「誰かに便乗する」というシステムを取り入れて上手く作用させたことが、ゲームをより盛り上げる要素になっているところに着目しました。自分だけの工場をつくることはもちろん楽しいのですが、それだけではありません。他の人に便乗できそうな機会を狙いながら、その時がきたら大きな声で「便乗!」と、自然に声を発してしまうのです。これなら幅広い層に楽しんでいただけるのは? という結論に至りました。
「ゲームを審査する」というのは初めてのことであり、勝手がわからぬまま務めてきたわけですが、他の審査員の方々にご協力いただくことで議論を進めることができました。また、サポートして頂きましたゲームマーケット事務局の方々にも、この場を借りてお礼を申し上げます。