- ゲームマーケット大賞選定を終えて(12/08 追記あり)
- 2015/12/7
審査員長:草場純
授賞式のご挨拶でも申し上げましたように、作品を審査員が審査するということはすなわち、受賞作品によって審査員が審査されるという事でもあります。またドイツゲーム大賞を例にとるのはおこがましいのかも知れませんが、敢えて範にとらせて頂ければ、賞の流れがゲームシーン全体の流れを作っていく、そこまで言えずとも大きな影響を与えてきた歴史的経緯もあります。その意味では少しも大げさでなく、審査員一同この重責に応えるべく第一回ゲームマーケット大賞の選定に真摯に努力したことは、誇っていいのではないかと考えております。
選定の方針にかかわって言えば、二つの基本的な考え方のせめぎ合いがあり、審査委員内での議論を重ねました。一つは「ゲーマーケット大賞の目的」として公表されている「あまりゲームを遊んだことがない方が、大賞だから遊んでみよう」と思える作品に授賞するという、至極当然の考え方。もうひとつは、いやしくも「大賞」と名付ける以上一年間のゲームマーケットで最も面白いゲームに授賞しようというこれもまた説得力のある考え方です。公表している以上前者が原則ですが、「大賞」の言葉の響きを考えた場合、後者の視線もまた無視できないものがあります。この両者には、広がりと奥行きというある意味矛盾するゲームの永遠のテーマが潜んでいるとも言えます。そこでエキスパート大賞を別に作ったらなどとの様々な意見が交わされた上で、「受賞作品で答える」という意味で、今回の大賞となったわけであり、その中でベストな選択だったと自負しております。
これからも、大賞の行方を見守り応援してくださるよう、心よりお願いする次第です。
個別の講評
審査員:秋山真琴
皆さん、こんにちは。ミスボドというゲーム会を都内と名古屋市内とで開催しております、秋山真琴と申します。ゲーム会の主催という立場から、多くのゲームシーンを見ていること、30歳という年齢から、若い目線を審査に加えられることから声を掛けていただき、審査員を務めさせていただきました。若輩者ですので、大仰な講評はできませんが、せっかく機会をいただけたので、かんたんにコメントさせていただきます。
審査に携わらせていただき、改めて感じたのは「面白い」の多様さです。率直に言って、優秀作品以上の5作品は、いずれも甲乙つけがたい、面白い作品です。用いる尺度によって、どの作品が大賞を受けてもおかしくなかったでしょう。議論を重ね、ひとりでも多くのゲームマーケット来場者に満足いただけることを基準にすることを決めました。その基準で選ばれたのが『海底探険』です。初めてボードゲームを遊ぶという方に勧めやすく、またゲームに慣れ親しんだ者同士でも、息が詰まる白熱の展開が楽しめます。ゲームマーケット来場者に「何がオススメですか?」と聞かれたときに、自信をもって勧められる作品です。ほんとうは全作についてお話したいのですが、紙幅に限りがあるとのことで、他の作品については、別途まとめさせていただきます。
最後に謝辞を。ゲームマーケット大賞を温かく受け入れていただき、見守ってくださった皆様に厚く御礼申し上げます。縁の下の力持ちとして土日返上で実務を担ってくださった事務局の刈谷様、山上様、松尾様に深謝致します。次回のゲームマーケット大賞は、2016年秋に発表予定です。引き続き、よろしくお願い致します。
個別の講評
審査員:小野卓也
ゲームマーケットで発表される新作の水準は年々上がっており、またバラエティも豊富になっている。その中で優秀作品や大賞を絞り込むのは厳しい作業だったが、珠玉の作品が並んだと思う。主にシステム面から講評してみたい。
『海底探険』は、普段ゲームを遊ばない人から上級者まで幅広くお薦めできる作品。運の要素は大きいが、リスクを冒したい人・慎重な人というように性格がゲームに表れ、会話を通した駆け引きもあって、プレイヤー主体でゲームが楽しめる。コンポーネントも機能的かつ洗練されている。
マスメディアに大きく取り上げられブームを起こした『枯山水』は、どうしてもテーマとコンポーネントばかり注目されがちだが、譲渡と強奪のシステムが配置ゲームに新風を送り込んだ。特に譲渡のシステムは和気藹々としたプレイ感を生み、プレイ中の会話を促すようになっている。
一方、『Minerva/ミネルウァ』は1時間以上かかる遊びごたえのある作品で、これまでのゲームマーケットで手薄だった中重量級ジャンルを切り拓いた。オリジナリティあるシステムと、細部まで作りこまれたバランスは、海外のゲーマーズゲームに勝るとも劣らない出来栄えである。
『ひとひら』はエキサイティングなバーストゲームをついたての裏でのコレクションや和風テイストの特殊効果で独特のプレイ感を生み出した作品。『PRINCESS ESCORT』はゲーム箱を投票箱にして、秘密裏に投票するというアイデアが非常に斬新で、数多ある招待隠匿系ゲームに新しい境地を開いている。見事というほかない。
個別の講評
審査員:朱鷺田祐介
「よいゲームは、勝っても負けてももう一度遊びたいと思う」私の基本的な評価基準です。今回、大賞を受賞した『海底探険』はまさにそんなゲームです。私はあまり勝てないのですが、もう一度、遊びたいと強く感じました。それはオインクゲームズの作品に通じる見通しの良さが生み出したものです。オインクゲームズらしい独自のセンスが吾朗君との共同デザインで丸められ、遊びやすいキッズ・ゲームのワクワクドキドキ感に昇華したように感じました。特別賞になった『枯山水』もこの遊びたい気持ちが強く誘引されるもので、完成した庭園を鑑賞する楽しみもまた格別なものでした。これが『ミネルウァ』の完成度と野心を越えていたと私は評価しました。『Minerva/ミネルウァ』はこれぞ、日本人が生み出したローマゲームであり、ゲームづくりにはもう国境がないことを証明しました。すでに海外へ雄飛したデザイナーのますますの活躍を期待します。『ひとひら』が高く評価されたことは個人的にうれしいことです。桜遊庵の和風のテイストが認められたことだと感じています。『PRINCESS ESCORT』は、人狼ゲームの可能性への果敢な挑戦であるとして、推薦作に加えましたが、これほど多くの評価を得られるとは想定外でした。コンポーネントやルールの記述など瑕疵は多々ありますし、より面白いボードゲームは多々ありますが、この挑戦を応援するものです。審査委員としては「ゲームとしての面白さ」に加えて、「ゲームマーケット入門者に勧められる難易度とプレイアビリティ」と「ジャンルへの挑戦の姿勢」を判断基準に加味したことを特に記しておきます。
個別の講評
草場純個別作品講評
大賞の『海底探険』の傑出した点は、なんといっても協力ゲームと非協力ゲームの中間のような、不思議なシステムの創造にあると私は思います。これは、今までになかったユニークな機構です。また、3ラウンド制で展開がエスカレートしていく点、拾ったお宝はとりあえずは見ない点、捨てるという選択肢もある点、生還できなかった場合のお宝の処理の点、3面ダイスを2個振る点等々、隅々までよく練られたルールであることに感心しました。あえて難点を言うなら、つい酸素を減らすのを忘れてしまいがちな点と、流石にボードが小さすぎると感ずる点です。
特別賞の『枯山水』は、いわゆる「引きゲー」にありがちな引き運の悪さを、他人とのウィンウィンの交換で埋め合わせられるといううまいシステムに、感心しました。あとあまり言われていませんが、案外「速攻」も戦略の選択肢としてありうると、私は思っています。これもあえて難点を言うなら、作者の美意識は重々理解しながらも、流石に得点のファクターが多すぎるかな、と思われる点です。
●二次審査通過作品から
『ライツ』はルールも易しく、私好みのジレンマのある、面白い作品と思いました。『ゴーダッチーズ』はバッティングゲームでありながら、単純なバッティングに終らない面白さを味わいました。
●一次審査通過作品から
気になったのは『しまんちゅ』『幻影探偵団』『さいころのアレ』『犯人は踊るポーカー』などです。
『幻影探偵団』は、クルー以来の推理ゲームを、過去作の欠点をうまく克服しつつ、伝奇ロマン風の雰囲気をうまく出したよい作品だと思いました。『さいころのアレ』は、私の好きな手本引きの雰囲気を強く感じました。ルールの細部をもう少し煮詰めれば、優秀作品でもおかしくない尖った面白さを味わいました。
秋山真琴個別作品講評
『海底探険』以外の作品についてコメントさせていただきます。
優秀作品の『ひとひら』は和風テイストの巾着に、桜を模したコマといった、いかにも国産ゲームという趣きのあるコンポーネントが特徴です。しかしながらライトな見た目に反し、その内奥にあるのはドイツゲームに通じる本格派です。バーストという考え方や、カウンティングが分かっているプレイヤならば、高度な駆け引きを楽しめることでしょう。
重量級を好まれる方に勧めたいのが『Minerva/ミネルウァ』です。極めて高いレベルの完成度を誇っており、リプレイビリティも高いです。プレイ時間が1時間を越えるユーロゲームを好み、国産ゲームはあまり遊ばれないという方も、是非、このゲームを遊んでみて「国産でこんな面白いゲームがあるのか!」と驚いていただければ幸いです。
『PRINCESS ESCORT』は投票箱というアイデアが非常に優れたゲームです。減点法ではなく、加点法で物事を考えたときに、このゲームが持っている可能性は大きく、強く推薦しました。正体隠蔽系がお好きな方はもちろん、国産ゲームが秘める斬新さをこそ見極めたいという方に一度は遊んでいただきたいと思います。
ご存知『枯山水』は、今さら私がとやかく言う必要はないかと思いますが、やはり日本ならではの考え方をゲームに落とし込んだことや、手製のコンポーネントが素晴らしいです。
二次審査通過作品の中では『MAYOR』が好みの作品です。『パンデミック』や『アンドールの伝説』のような協力系のゲームが好きなのですが、『MAYOR』も楽しく遊ぶことができました。
トリックテイキングの『7つの紋章、7つの部族』は、ルール自体はシンプルでありながら、いざ勝とうと思うと難しく、初心者にうってつけではないかと思います。
『ひつじとどろぼう』も可愛らしい見た目に反し、ドラフトにおけるピックとカットという考え方が、効果的に埋め込まれており、ドラフトを核としたゲームの第一歩として適切です。
『チューリップ・バブル』は硬派な作品であると感じました。株や競りの要素とセットコレクションの要素を掛け算した秀作です。ユーロゲームがお好きな方であれば、是非。
コミュニケーションゲームの『ピクテル』は楽しい作品です。方向性としてはお絵描きゲームですが、絵が苦手な方でも楽しめます。パーティで遊ぶゲームにうってつけです。
一次審査通過作品の中では、紐を使った『ライデマイスター』が独自色という観点において群を抜いています。『ウボンゴ』のようなパズルゲームがお好きな方は、きっと楽しめるでしょう。
一人用ゲームの『ゴリティア』と『ドワーフの城塞』は、どちらも傑作と言えるでしょう。『オニリム』、『フライデー』、『シェフィ』等、一人用ゲームは独自の文化を持ち、他のボードゲームとは圧倒的に異なる進化を遂げています。この行く末を見定めたいという方は要注目です。
大正時代の世界観が印象的な『幻影探偵団』も取り上げさせてください。従来の推理ゲームにあった手札運による不公平性が軽減されている仕組みが素敵です。
小野卓也個別作品講評
優秀作品に選ばれなかった作品の中から、気になったゲームをいくつかピックアップしてコメントしたいと思います。
『ゴーダッチーズ』(OKAZU Brand)は、ネズミがネコに気を付けてチーズを目指すカードゲーム。『ミネルウァ』と同様に海外のゲームと十二分に比肩する面白さをもった作品です。シンプルなゲームの進行で直感的に遊べる一方、ゲーマーが遊ぶとジレンマや心理戦が楽しめるように作られており、またイラストやタイトルも遊び心があって遊ぶ人の心を躍らせます。
『ゲット☆スイートラブ』(しらたまゲームズ)は、女の子の性格を見極めて告白するカードゲーム。ポリティカル・コレクトネスの関係で優秀作品に選ぶことはできませんでしたが、カードに単なる数字ではなく女の子の性格が書かれていることから、裏向きに置かれたカード(=裏の性格)や、カードの組み合わせをめぐってあれこれ会話が盛り上がる作品でした。
『Eight Epics』(カナイ製作所)は、数々の災害にダイス目を揃えて乗り切るダイスゲーム。絶対に無理かと思える達成条件を、みんなの特殊能力を合わせると何とかクリアできるという作り方がテーマにマッチしており、能力の組み合わせを工夫すべく、プレイヤーを夢中にさせます。運と特殊能力のバランスが絶妙で、ダイスゲームのお手本のようなゲームです。
『ピクテル』(ボドゲイム)は、透明のカードを並べてお題を表現し、当ててもらうカードゲーム。普段遊ばない人にも薦められるパーティーゲームです。透明のカードを使って表現の幅を広げたところが素晴らしいだけでなく、お題を考える人とカードを並べる人を分けたことで微妙な協力関係とムチャぶりが楽しめます。
『ひつじとどろぼう』(Power9Games)は、カードを配置してたくさんのひつじを集めるボードゲーム。ひつじを奪うどろぼうの位置が各自のボードで共通しているところが秀逸で、ちょうどよいインタラクションを生み出しているように感じられました。カードドラフトがなくても、配られた手札で戦術を立てて楽しめると思います。
『ブレーメンズ』(大気圏内ゲームズ)は、ネコ、イヌ、ロバの3匹チームでゴールを目指すボードゲーム。より小さいコマしか上に乗れないというルールと、特殊能力のあるカードにより、戦術と運のバランスが取れています。5人でプレイすると大渋滞してしまうため、3~4人ぐらいで遊ぶのが面白いです。
『ドラゴン』(HOY GAMES)は精霊カードの能力で資材を集め、ドラゴンを育成するカードゲーム。コミックファンタジーテイストの面白いテーマに加え、ほかのプレイヤーの精霊も使うことができるルールにより、自分にメリットがあるかどうか以上に、局面にふさわしい精霊が必要となります。これが戦略の多様性に深みを出しており、特筆に値する作品です。
朱鷺田祐介個別作品講評
10点満点。以下、個別に評価と寸評を加えます。
なお、この寸評の前提として、「ゲームとしての面白さ」に加えて、「ゲームマーケット入門者に素直に勧められる難易度とプレイアビリティ」を判断基準に加味したことを特に記しておきます。また、TRPGデザイナーとしてディベロップすれば改善されるポイントを評価に影響させました。
◎Eight Epics(カナイ製作所) 6.9点
ダイス・ゲームの可能性を協力ゲームの形に綺麗にまとめた腕前はさすがカナイセイジ。最大人数で遊びたいバランスの点が長所であり、短所である。
◎GLOBETROTTER(Joygames x Gamestore Banesto) 7.0点
世界を旅する軽やかさと楽しさが魅力の世界水準のカードゲームである。国際協力によるこのようなカードゲームの誕生は新しい時代を代表するものと言える。
◎HONNOJI(シンガリハット) 6.9点
本能寺という歴史的な事象をタイル化したギミックに落とし込んだのは快挙である。スタートプレイヤーマーカーを旗にしたアイデアもよい。
◎MAYOR(やおよろズ) 7.1点
市長選挙を律儀に再現したシミュレーション・ボードゲームとしての完成度は高い。それは再現性にとどまってしまったのが、弱点。
◎PRINCESS ESCORT(てぃ~くらぶ) 7.4点
TRPG風のミッションクリアゲームに、人狼的な正体隠匿系のルールを加えた野心作。ゲームボックスがそのまま投票箱になるというのが、人狼系の弱点を消し、マスターレスのプレイを実現した。人狼ゲームの可能性への果敢な挑戦です。コンポーネントやルールの記述など瑕疵は多々ありますし、より面白いボードゲームは多々ありますが、挑戦を応援するものです。
◎7つの紋章、7つの部族(高天原) 8.0点
数字の組み合わせを変えるという野心的なトリックテイキングゲーム。他のトリックテイキングが基本ルールをいじりすぎたり、逆順・昇順を混ぜたりして新規性を出したが、その結果、プレイアビリティを落とす傾向があったが、この作品はプレイアビリティを損ねず、プレイの速度も早く、インスト時間も伸びていない。それこそが高く評価するところである。
◎アメコミコレクション(Roughneck:7) 6.1点
若い頃、SFファンでコレクターの友人が多かった朱鷺田としては、かなりツボのテーマであり、楽しくプレイさせていただきました。イラストも同人ゲームらしい楽しさがいかにパルプ時代のアメコミらしく、素晴らしいものでした。ただし、ゲームの攻略方がほぼ一択の上、マネーカードなどコンポーネントのゲーム要素にもう一工夫が必要でありましょう。
◎ゲット☆スイートラブ(しらたまゲームス) 7.7点
彼女のダメな特徴をつけて、恋人を育成していくカードゲーム。「ゲスラブ」という略称すら愛おしい。面白いし、パーティ向けの一品。
◎ゴー・ダッ・チーズ(OKAZU brand) 7.9点
猫やネズミのカードを配置してチーズを奪い合うカードゲーム。子供にも勧められる完成度。これと『ミネルウァ』を同じ年に送り出されては、もはやOKAZU brandは別格と見るしか道はない。どちらを選ぶかで悩みました。
◎ゴリティア(ステッパーズ・ストップ) 6.6点
二種類のカードで形成されたソリティア。まるで『マジック:ザ・ギャザリング』の無限コンボを回しているような感覚が懐かしくもあり、興味深くもある。カードゲームの可能性を見せてくれた象徴的な作品である。『シェフィ』から『カレン』への流れが見えて興味深い。
◎サイコロのアレ(豚小屋委託) 5.3点
ダイスを使った手本引き、と草場先生に示唆されるまで、どうにもゲーム性が見えなかったため、朱鷺田としては評価を下げました。ルールブックの記述が分かりにくいからです。
◎しまんちゅ(イリクンデ) 7.1点
沖縄の島を舞台にした拡大再生産ゲーム。島らしい雰囲気はコンポーネントによく表現されています。
◎スチームウォーズ(たけのこ攻防) 6.4点
対戦型のアブストラクト・ゲーム。レーザーカッターを使用した歯車型のコマは非常にスチームパンクっぽいものでシステムも見るべきものがありますが、それ以外にスチーム要素が少なく、ロボットというネタも活かし切れていないので、コンポーネントを訂正すべきでしょう。
◎チューリップ・バブル(ぐうのね) 7.8点
チューリップのバブル市場という面白い題材を綺麗なコンポーネントにまとめた傑作。残念ながら、ゲームバランスが悪く、途中のプレイがもたつき、選択肢が狭まってしまっている。Aランクをいつでも買える代わりに値段でバランスを取る、購入の自由度を高めるなどすれば、優秀作に入れたと思う。ディベロップの幅が今後の課題であろう。
◎ドラゴン(HOY GAMES) 6.1点
ドラゴンを育てて、最後にドラゴン同士のバトルへと進むカードゲーム。ドラゴンをカードの組み合わせで表現する『Quarks』的な仕掛けや育成カードなどは見るべきものがあるが、二段階、1時間に達するプレイが煩雑に見えた。おそらくもう一段階大きな箱で作れたら、よりとっつきやすかったと思う。海外版の話もあるとかで、商業版に期待する。
◎とりっく&でざーと(操られ人形館) 6.9点
トリックテイキングゲーム。昇順、降順が混じったことで、より高度な思考ゲームが出来るようになったが、その分、見通しが悪くなり、人に勧めるという観点からはマイナスとした。
◎ドワーフの城塞(ステッパーズ・ストップ/I was game) 6.4点
ポストカードゲーム(はがき1枚)で作られたゲームの一作で、ソロプレイできるファンタジーRPG風ダイスゲーム。ポストカードゲームを代表して選出された。興味深いムーブメントであり、ここに参加した流れから新しい世界が広がると信じ、本作を評価する。
◎パイレーツコード(かぼへる) 7.7点
海賊をテーマにした、読み合いを行うミニマリズム・カードゲームの快作。遊びやすく、続編もよい。
◎ひつじとどろぼう(Power9Games) 7.1点
各人がマップを持ち、ドラフトしたマップカードを置いて、牧場から道を伸ばすゲーム。もふもふした羊の愛らしさが魅力。泥棒を動かして羊を奪うなどの妨害もできるが、勝敗の半分はカードドラフトで決まるので、やり込むと戦術の幅が狭くなる。また、各自が同じマップを持つため、ゲーム内容のの割に広い机が必要になる。同じマップでよかったのか、あるいは個別マップは必要だったのか? など、矛盾が気になってしまった。
◎ピクテル(ボドゲイム) 7.2点
透明カードに描かれたピクチャー・アイコンを使用して、特定の概念を表現するお絵かきゲーム。傑作であり、携帯に向くのもよい。初心者向けとも言える。
◎ひとひら(桜遊庵) 6.9点
和風のコンポーネントを使用したブラフ系バッティングゲーム。桜遊庵の和風のテイストが好きなので、『ひとひら』が高く評価されたことは個人的にうれしいことです。ただ、ルールが複雑になり、点数や追加ルールのカードで参照することが増えつつあるのは、ゲームの見通しの悪さを産み始めているので、ギミックの迷宮に踏み込まないでいてくれるとうれしい。
◎ブレーメンズ(大気圏内ゲームズ) 7.0点
コンポーネントの美しさ、ネーミングセンスなどでは一級品。カードによるスゴロクゲームらしい面白さと戦略性がぎゅっと詰まっている。その分、プレイ順不同によるゲームの煩雑さが気になってしまった。おそらくはカードが3倍使えれば、さらにおもしろい作品になる。
◎マッシヴ! Attack of the Tyrant(Roughneck:7) 7.2点
透明プラカードに描かれた怪獣の胴体・頭・手・足を使い、カードと組み合わせて怪獣プロレスを行うカードゲーム。元・怪獣オタクとしてはなかなか燃えるものである。怪獣が2体しかいないので、拡張編と合わせて遊びたい。
◎Minerva/ミネルウァ(OKAZU brand) 8.3点
カードで表される施設を組み合わせて都市経営を行う。日本人が作ったとは思えないほど、ローマなゲームであり、ボードゲームの国境を超えたものである。多数あるカードの効果がほぼ単発であるため、インストが長めだが、完成度も高く、いずれ、海外で本格タイトルとして発売されるだろう。ドイツゲーム的な意味合いの強い中量級ゲーム。
◎ライツ(オインクゲームズ) 7.7点(選外)
伝統的な衣装の著作権を奪い合うマジョリティ系のカードゲーム。面白いし、シンプルだが、『海底探険』の方が面白いので、審査にあたっては選外とした。あと、カードが小さい点がやや不満。
◎ライデマイスター(BakaFire Party、全ファミ協会) 6.9点
ひもを使ったアクション・ゲーム。朱鷺田は苦手です。すいません。
キッズ向けトイ・ゲームとして購入するのはアリ。ハバあたりから出してほしい。
◎猛牛が倒せない(こたつパーティー) 6.9点
ルールがシンプルで分かりやすいカードゲーム。入門編として評価。
◎知ったか映画研究家(豚小屋) 6.3点(選外)
同人ゲームらしいネタ満載のジョークゲーム。映画好きが集まって酒でも飲みながらやれば最高。
ただし、本当の映画の題名が出来てしまうあたりがあり、選外とせざるを得ない。
◎犯人は踊るポーカー(鍋野企画+数寄ゲームズ) 7.5点
人狼系推理ゲームの小品。個人的にはすでにコンポーネントが反則。
◎勝手にしやがれ!(賽苑) 8.1点
両面に絵柄が描かれた木製タイルを使用し、ブラインドでピラミッドを築き上げる協力ゲーム。賽苑らしいセンスが印象的である。
◎幻影探偵団(ハッピーゲームズ) 7.3点.
大正浪漫を具現化した推理ゲームで、江戸川乱歩が好きなら、買って損はない。基本的に、塗りつぶし系の推理ゲームなので、それを楽しめるかどうかが肝。
◎一撃ヒーローズ(ボドゲイム) 7.2点
カードをめくって超必殺技を繰り出すという一発ネタのゲーム。ヒーローもの好きなら、プレイの価値あり。叫びたい人向け。個人的には面白かった。
◎枯山水(New Games Order) 8.3点
タイルを配置して美しい枯山水を作るゲーム。ルールの見通しもよく、ゲームも適度に短く、終わった後、完成した庭園を鑑賞する楽しみもまた格別なものでした。
さすが、第一回東京ドイツゲーム大賞受賞作を製品化したものである。そもそも、これは評価範囲に入っているのが反則だと朱鷺田としては感じている。ルールもコンポーネントも美しい。そういうニュアンスに加え、ボードゲームの存在をアピールしてくれたことを含めて、特別賞に推しました。
◎海底探険(オインクゲームズ) 8.4点
「よいゲームは、勝っても負けてももう一度遊びたいと思う」私の基本的な評価基準です。今回、大賞を受賞した『海底探険』はまさにそんなゲームです。私はあまり勝てないのですが、もう一度、遊びたいと強く感じました。それはオインクゲームズの作品に通じる見通しの良さが生み出したものです。『小早川』などに見られる知の走った固有のセンスが、吾朗君との共同デザインで丸められ、遊びやすいキッズ・ゲームらしいワクワクドキドキ感に昇華したように感じました。
◎姫騎士逃ゲテ~(蒼猫の巣 出張所) 8.1点
「姫騎士VSオーク」という旬の食材をわずかなカードを使った変則対戦ゲームに仕上げたパズリックな作品。個人的には、日本のゲームミニマリズムの結晶と思っている。ネタはネタなので、ゲームマーケット大賞はあげられないけれど、ネタを分かってもらえる方にはおすすめしたい。
授賞式のご挨拶でも申し上げましたように、作品を審査員が審査するということはすなわち、受賞作品によって審査員が審査されるという事でもあります。またドイツゲーム大賞を例にとるのはおこがましいのかも知れませんが、敢えて範にとらせて頂ければ、賞の流れがゲームシーン全体の流れを作っていく、そこまで言えずとも大きな影響を与えてきた歴史的経緯もあります。その意味では少しも大げさでなく、審査員一同この重責に応えるべく第一回ゲームマーケット大賞の選定に真摯に努力したことは、誇っていいのではないかと考えております。
選定の方針にかかわって言えば、二つの基本的な考え方のせめぎ合いがあり、審査委員内での議論を重ねました。一つは「ゲーマーケット大賞の目的」として公表されている「あまりゲームを遊んだことがない方が、大賞だから遊んでみよう」と思える作品に授賞するという、至極当然の考え方。もうひとつは、いやしくも「大賞」と名付ける以上一年間のゲームマーケットで最も面白いゲームに授賞しようというこれもまた説得力のある考え方です。公表している以上前者が原則ですが、「大賞」の言葉の響きを考えた場合、後者の視線もまた無視できないものがあります。この両者には、広がりと奥行きというある意味矛盾するゲームの永遠のテーマが潜んでいるとも言えます。そこでエキスパート大賞を別に作ったらなどとの様々な意見が交わされた上で、「受賞作品で答える」という意味で、今回の大賞となったわけであり、その中でベストな選択だったと自負しております。
これからも、大賞の行方を見守り応援してくださるよう、心よりお願いする次第です。
個別の講評
審査員:秋山真琴
皆さん、こんにちは。ミスボドというゲーム会を都内と名古屋市内とで開催しております、秋山真琴と申します。ゲーム会の主催という立場から、多くのゲームシーンを見ていること、30歳という年齢から、若い目線を審査に加えられることから声を掛けていただき、審査員を務めさせていただきました。若輩者ですので、大仰な講評はできませんが、せっかく機会をいただけたので、かんたんにコメントさせていただきます。
審査に携わらせていただき、改めて感じたのは「面白い」の多様さです。率直に言って、優秀作品以上の5作品は、いずれも甲乙つけがたい、面白い作品です。用いる尺度によって、どの作品が大賞を受けてもおかしくなかったでしょう。議論を重ね、ひとりでも多くのゲームマーケット来場者に満足いただけることを基準にすることを決めました。その基準で選ばれたのが『海底探険』です。初めてボードゲームを遊ぶという方に勧めやすく、またゲームに慣れ親しんだ者同士でも、息が詰まる白熱の展開が楽しめます。ゲームマーケット来場者に「何がオススメですか?」と聞かれたときに、自信をもって勧められる作品です。ほんとうは全作についてお話したいのですが、紙幅に限りがあるとのことで、他の作品については、別途まとめさせていただきます。
最後に謝辞を。ゲームマーケット大賞を温かく受け入れていただき、見守ってくださった皆様に厚く御礼申し上げます。縁の下の力持ちとして土日返上で実務を担ってくださった事務局の刈谷様、山上様、松尾様に深謝致します。次回のゲームマーケット大賞は、2016年秋に発表予定です。引き続き、よろしくお願い致します。
個別の講評
審査員:小野卓也
ゲームマーケットで発表される新作の水準は年々上がっており、またバラエティも豊富になっている。その中で優秀作品や大賞を絞り込むのは厳しい作業だったが、珠玉の作品が並んだと思う。主にシステム面から講評してみたい。
『海底探険』は、普段ゲームを遊ばない人から上級者まで幅広くお薦めできる作品。運の要素は大きいが、リスクを冒したい人・慎重な人というように性格がゲームに表れ、会話を通した駆け引きもあって、プレイヤー主体でゲームが楽しめる。コンポーネントも機能的かつ洗練されている。
マスメディアに大きく取り上げられブームを起こした『枯山水』は、どうしてもテーマとコンポーネントばかり注目されがちだが、譲渡と強奪のシステムが配置ゲームに新風を送り込んだ。特に譲渡のシステムは和気藹々としたプレイ感を生み、プレイ中の会話を促すようになっている。
一方、『Minerva/ミネルウァ』は1時間以上かかる遊びごたえのある作品で、これまでのゲームマーケットで手薄だった中重量級ジャンルを切り拓いた。オリジナリティあるシステムと、細部まで作りこまれたバランスは、海外のゲーマーズゲームに勝るとも劣らない出来栄えである。
『ひとひら』はエキサイティングなバーストゲームをついたての裏でのコレクションや和風テイストの特殊効果で独特のプレイ感を生み出した作品。『PRINCESS ESCORT』はゲーム箱を投票箱にして、秘密裏に投票するというアイデアが非常に斬新で、数多ある招待隠匿系ゲームに新しい境地を開いている。見事というほかない。
個別の講評
審査員:朱鷺田祐介
「よいゲームは、勝っても負けてももう一度遊びたいと思う」私の基本的な評価基準です。今回、大賞を受賞した『海底探険』はまさにそんなゲームです。私はあまり勝てないのですが、もう一度、遊びたいと強く感じました。それはオインクゲームズの作品に通じる見通しの良さが生み出したものです。オインクゲームズらしい独自のセンスが吾朗君との共同デザインで丸められ、遊びやすいキッズ・ゲームのワクワクドキドキ感に昇華したように感じました。特別賞になった『枯山水』もこの遊びたい気持ちが強く誘引されるもので、完成した庭園を鑑賞する楽しみもまた格別なものでした。これが『ミネルウァ』の完成度と野心を越えていたと私は評価しました。『Minerva/ミネルウァ』はこれぞ、日本人が生み出したローマゲームであり、ゲームづくりにはもう国境がないことを証明しました。すでに海外へ雄飛したデザイナーのますますの活躍を期待します。『ひとひら』が高く評価されたことは個人的にうれしいことです。桜遊庵の和風のテイストが認められたことだと感じています。『PRINCESS ESCORT』は、人狼ゲームの可能性への果敢な挑戦であるとして、推薦作に加えましたが、これほど多くの評価を得られるとは想定外でした。コンポーネントやルールの記述など瑕疵は多々ありますし、より面白いボードゲームは多々ありますが、この挑戦を応援するものです。審査委員としては「ゲームとしての面白さ」に加えて、「ゲームマーケット入門者に勧められる難易度とプレイアビリティ」と「ジャンルへの挑戦の姿勢」を判断基準に加味したことを特に記しておきます。
個別の講評
草場純個別作品講評
大賞の『海底探険』の傑出した点は、なんといっても協力ゲームと非協力ゲームの中間のような、不思議なシステムの創造にあると私は思います。これは、今までになかったユニークな機構です。また、3ラウンド制で展開がエスカレートしていく点、拾ったお宝はとりあえずは見ない点、捨てるという選択肢もある点、生還できなかった場合のお宝の処理の点、3面ダイスを2個振る点等々、隅々までよく練られたルールであることに感心しました。あえて難点を言うなら、つい酸素を減らすのを忘れてしまいがちな点と、流石にボードが小さすぎると感ずる点です。
特別賞の『枯山水』は、いわゆる「引きゲー」にありがちな引き運の悪さを、他人とのウィンウィンの交換で埋め合わせられるといううまいシステムに、感心しました。あとあまり言われていませんが、案外「速攻」も戦略の選択肢としてありうると、私は思っています。これもあえて難点を言うなら、作者の美意識は重々理解しながらも、流石に得点のファクターが多すぎるかな、と思われる点です。
●二次審査通過作品から
『ライツ』はルールも易しく、私好みのジレンマのある、面白い作品と思いました。『ゴーダッチーズ』はバッティングゲームでありながら、単純なバッティングに終らない面白さを味わいました。
●一次審査通過作品から
気になったのは『しまんちゅ』『幻影探偵団』『さいころのアレ』『犯人は踊るポーカー』などです。
『幻影探偵団』は、クルー以来の推理ゲームを、過去作の欠点をうまく克服しつつ、伝奇ロマン風の雰囲気をうまく出したよい作品だと思いました。『さいころのアレ』は、私の好きな手本引きの雰囲気を強く感じました。ルールの細部をもう少し煮詰めれば、優秀作品でもおかしくない尖った面白さを味わいました。
秋山真琴個別作品講評
『海底探険』以外の作品についてコメントさせていただきます。
優秀作品の『ひとひら』は和風テイストの巾着に、桜を模したコマといった、いかにも国産ゲームという趣きのあるコンポーネントが特徴です。しかしながらライトな見た目に反し、その内奥にあるのはドイツゲームに通じる本格派です。バーストという考え方や、カウンティングが分かっているプレイヤならば、高度な駆け引きを楽しめることでしょう。
重量級を好まれる方に勧めたいのが『Minerva/ミネルウァ』です。極めて高いレベルの完成度を誇っており、リプレイビリティも高いです。プレイ時間が1時間を越えるユーロゲームを好み、国産ゲームはあまり遊ばれないという方も、是非、このゲームを遊んでみて「国産でこんな面白いゲームがあるのか!」と驚いていただければ幸いです。
『PRINCESS ESCORT』は投票箱というアイデアが非常に優れたゲームです。減点法ではなく、加点法で物事を考えたときに、このゲームが持っている可能性は大きく、強く推薦しました。正体隠蔽系がお好きな方はもちろん、国産ゲームが秘める斬新さをこそ見極めたいという方に一度は遊んでいただきたいと思います。
ご存知『枯山水』は、今さら私がとやかく言う必要はないかと思いますが、やはり日本ならではの考え方をゲームに落とし込んだことや、手製のコンポーネントが素晴らしいです。
二次審査通過作品の中では『MAYOR』が好みの作品です。『パンデミック』や『アンドールの伝説』のような協力系のゲームが好きなのですが、『MAYOR』も楽しく遊ぶことができました。
トリックテイキングの『7つの紋章、7つの部族』は、ルール自体はシンプルでありながら、いざ勝とうと思うと難しく、初心者にうってつけではないかと思います。
『ひつじとどろぼう』も可愛らしい見た目に反し、ドラフトにおけるピックとカットという考え方が、効果的に埋め込まれており、ドラフトを核としたゲームの第一歩として適切です。
『チューリップ・バブル』は硬派な作品であると感じました。株や競りの要素とセットコレクションの要素を掛け算した秀作です。ユーロゲームがお好きな方であれば、是非。
コミュニケーションゲームの『ピクテル』は楽しい作品です。方向性としてはお絵描きゲームですが、絵が苦手な方でも楽しめます。パーティで遊ぶゲームにうってつけです。
一次審査通過作品の中では、紐を使った『ライデマイスター』が独自色という観点において群を抜いています。『ウボンゴ』のようなパズルゲームがお好きな方は、きっと楽しめるでしょう。
一人用ゲームの『ゴリティア』と『ドワーフの城塞』は、どちらも傑作と言えるでしょう。『オニリム』、『フライデー』、『シェフィ』等、一人用ゲームは独自の文化を持ち、他のボードゲームとは圧倒的に異なる進化を遂げています。この行く末を見定めたいという方は要注目です。
大正時代の世界観が印象的な『幻影探偵団』も取り上げさせてください。従来の推理ゲームにあった手札運による不公平性が軽減されている仕組みが素敵です。
小野卓也個別作品講評
優秀作品に選ばれなかった作品の中から、気になったゲームをいくつかピックアップしてコメントしたいと思います。
『ゴーダッチーズ』(OKAZU Brand)は、ネズミがネコに気を付けてチーズを目指すカードゲーム。『ミネルウァ』と同様に海外のゲームと十二分に比肩する面白さをもった作品です。シンプルなゲームの進行で直感的に遊べる一方、ゲーマーが遊ぶとジレンマや心理戦が楽しめるように作られており、またイラストやタイトルも遊び心があって遊ぶ人の心を躍らせます。
『ゲット☆スイートラブ』(しらたまゲームズ)は、女の子の性格を見極めて告白するカードゲーム。ポリティカル・コレクトネスの関係で優秀作品に選ぶことはできませんでしたが、カードに単なる数字ではなく女の子の性格が書かれていることから、裏向きに置かれたカード(=裏の性格)や、カードの組み合わせをめぐってあれこれ会話が盛り上がる作品でした。
『Eight Epics』(カナイ製作所)は、数々の災害にダイス目を揃えて乗り切るダイスゲーム。絶対に無理かと思える達成条件を、みんなの特殊能力を合わせると何とかクリアできるという作り方がテーマにマッチしており、能力の組み合わせを工夫すべく、プレイヤーを夢中にさせます。運と特殊能力のバランスが絶妙で、ダイスゲームのお手本のようなゲームです。
『ピクテル』(ボドゲイム)は、透明のカードを並べてお題を表現し、当ててもらうカードゲーム。普段遊ばない人にも薦められるパーティーゲームです。透明のカードを使って表現の幅を広げたところが素晴らしいだけでなく、お題を考える人とカードを並べる人を分けたことで微妙な協力関係とムチャぶりが楽しめます。
『ひつじとどろぼう』(Power9Games)は、カードを配置してたくさんのひつじを集めるボードゲーム。ひつじを奪うどろぼうの位置が各自のボードで共通しているところが秀逸で、ちょうどよいインタラクションを生み出しているように感じられました。カードドラフトがなくても、配られた手札で戦術を立てて楽しめると思います。
『ブレーメンズ』(大気圏内ゲームズ)は、ネコ、イヌ、ロバの3匹チームでゴールを目指すボードゲーム。より小さいコマしか上に乗れないというルールと、特殊能力のあるカードにより、戦術と運のバランスが取れています。5人でプレイすると大渋滞してしまうため、3~4人ぐらいで遊ぶのが面白いです。
『ドラゴン』(HOY GAMES)は精霊カードの能力で資材を集め、ドラゴンを育成するカードゲーム。コミックファンタジーテイストの面白いテーマに加え、ほかのプレイヤーの精霊も使うことができるルールにより、自分にメリットがあるかどうか以上に、局面にふさわしい精霊が必要となります。これが戦略の多様性に深みを出しており、特筆に値する作品です。
朱鷺田祐介個別作品講評
10点満点。以下、個別に評価と寸評を加えます。
なお、この寸評の前提として、「ゲームとしての面白さ」に加えて、「ゲームマーケット入門者に素直に勧められる難易度とプレイアビリティ」を判断基準に加味したことを特に記しておきます。また、TRPGデザイナーとしてディベロップすれば改善されるポイントを評価に影響させました。
◎Eight Epics(カナイ製作所) 6.9点
ダイス・ゲームの可能性を協力ゲームの形に綺麗にまとめた腕前はさすがカナイセイジ。最大人数で遊びたいバランスの点が長所であり、短所である。
◎GLOBETROTTER(Joygames x Gamestore Banesto) 7.0点
世界を旅する軽やかさと楽しさが魅力の世界水準のカードゲームである。国際協力によるこのようなカードゲームの誕生は新しい時代を代表するものと言える。
◎HONNOJI(シンガリハット) 6.9点
本能寺という歴史的な事象をタイル化したギミックに落とし込んだのは快挙である。スタートプレイヤーマーカーを旗にしたアイデアもよい。
◎MAYOR(やおよろズ) 7.1点
市長選挙を律儀に再現したシミュレーション・ボードゲームとしての完成度は高い。それは再現性にとどまってしまったのが、弱点。
◎PRINCESS ESCORT(てぃ~くらぶ) 7.4点
TRPG風のミッションクリアゲームに、人狼的な正体隠匿系のルールを加えた野心作。ゲームボックスがそのまま投票箱になるというのが、人狼系の弱点を消し、マスターレスのプレイを実現した。人狼ゲームの可能性への果敢な挑戦です。コンポーネントやルールの記述など瑕疵は多々ありますし、より面白いボードゲームは多々ありますが、挑戦を応援するものです。
◎7つの紋章、7つの部族(高天原) 8.0点
数字の組み合わせを変えるという野心的なトリックテイキングゲーム。他のトリックテイキングが基本ルールをいじりすぎたり、逆順・昇順を混ぜたりして新規性を出したが、その結果、プレイアビリティを落とす傾向があったが、この作品はプレイアビリティを損ねず、プレイの速度も早く、インスト時間も伸びていない。それこそが高く評価するところである。
◎アメコミコレクション(Roughneck:7) 6.1点
若い頃、SFファンでコレクターの友人が多かった朱鷺田としては、かなりツボのテーマであり、楽しくプレイさせていただきました。イラストも同人ゲームらしい楽しさがいかにパルプ時代のアメコミらしく、素晴らしいものでした。ただし、ゲームの攻略方がほぼ一択の上、マネーカードなどコンポーネントのゲーム要素にもう一工夫が必要でありましょう。
◎ゲット☆スイートラブ(しらたまゲームス) 7.7点
彼女のダメな特徴をつけて、恋人を育成していくカードゲーム。「ゲスラブ」という略称すら愛おしい。面白いし、パーティ向けの一品。
◎ゴー・ダッ・チーズ(OKAZU brand) 7.9点
猫やネズミのカードを配置してチーズを奪い合うカードゲーム。子供にも勧められる完成度。これと『ミネルウァ』を同じ年に送り出されては、もはやOKAZU brandは別格と見るしか道はない。どちらを選ぶかで悩みました。
◎ゴリティア(ステッパーズ・ストップ) 6.6点
二種類のカードで形成されたソリティア。まるで『マジック:ザ・ギャザリング』の無限コンボを回しているような感覚が懐かしくもあり、興味深くもある。カードゲームの可能性を見せてくれた象徴的な作品である。『シェフィ』から『カレン』への流れが見えて興味深い。
◎サイコロのアレ(豚小屋委託) 5.3点
ダイスを使った手本引き、と草場先生に示唆されるまで、どうにもゲーム性が見えなかったため、朱鷺田としては評価を下げました。ルールブックの記述が分かりにくいからです。
◎しまんちゅ(イリクンデ) 7.1点
沖縄の島を舞台にした拡大再生産ゲーム。島らしい雰囲気はコンポーネントによく表現されています。
◎スチームウォーズ(たけのこ攻防) 6.4点
対戦型のアブストラクト・ゲーム。レーザーカッターを使用した歯車型のコマは非常にスチームパンクっぽいものでシステムも見るべきものがありますが、それ以外にスチーム要素が少なく、ロボットというネタも活かし切れていないので、コンポーネントを訂正すべきでしょう。
◎チューリップ・バブル(ぐうのね) 7.8点
チューリップのバブル市場という面白い題材を綺麗なコンポーネントにまとめた傑作。残念ながら、ゲームバランスが悪く、途中のプレイがもたつき、選択肢が狭まってしまっている。Aランクをいつでも買える代わりに値段でバランスを取る、購入の自由度を高めるなどすれば、優秀作に入れたと思う。ディベロップの幅が今後の課題であろう。
◎ドラゴン(HOY GAMES) 6.1点
ドラゴンを育てて、最後にドラゴン同士のバトルへと進むカードゲーム。ドラゴンをカードの組み合わせで表現する『Quarks』的な仕掛けや育成カードなどは見るべきものがあるが、二段階、1時間に達するプレイが煩雑に見えた。おそらくもう一段階大きな箱で作れたら、よりとっつきやすかったと思う。海外版の話もあるとかで、商業版に期待する。
◎とりっく&でざーと(操られ人形館) 6.9点
トリックテイキングゲーム。昇順、降順が混じったことで、より高度な思考ゲームが出来るようになったが、その分、見通しが悪くなり、人に勧めるという観点からはマイナスとした。
◎ドワーフの城塞(ステッパーズ・ストップ/I was game) 6.4点
ポストカードゲーム(はがき1枚)で作られたゲームの一作で、ソロプレイできるファンタジーRPG風ダイスゲーム。ポストカードゲームを代表して選出された。興味深いムーブメントであり、ここに参加した流れから新しい世界が広がると信じ、本作を評価する。
◎パイレーツコード(かぼへる) 7.7点
海賊をテーマにした、読み合いを行うミニマリズム・カードゲームの快作。遊びやすく、続編もよい。
◎ひつじとどろぼう(Power9Games) 7.1点
各人がマップを持ち、ドラフトしたマップカードを置いて、牧場から道を伸ばすゲーム。もふもふした羊の愛らしさが魅力。泥棒を動かして羊を奪うなどの妨害もできるが、勝敗の半分はカードドラフトで決まるので、やり込むと戦術の幅が狭くなる。また、各自が同じマップを持つため、ゲーム内容のの割に広い机が必要になる。同じマップでよかったのか、あるいは個別マップは必要だったのか? など、矛盾が気になってしまった。
◎ピクテル(ボドゲイム) 7.2点
透明カードに描かれたピクチャー・アイコンを使用して、特定の概念を表現するお絵かきゲーム。傑作であり、携帯に向くのもよい。初心者向けとも言える。
◎ひとひら(桜遊庵) 6.9点
和風のコンポーネントを使用したブラフ系バッティングゲーム。桜遊庵の和風のテイストが好きなので、『ひとひら』が高く評価されたことは個人的にうれしいことです。ただ、ルールが複雑になり、点数や追加ルールのカードで参照することが増えつつあるのは、ゲームの見通しの悪さを産み始めているので、ギミックの迷宮に踏み込まないでいてくれるとうれしい。
◎ブレーメンズ(大気圏内ゲームズ) 7.0点
コンポーネントの美しさ、ネーミングセンスなどでは一級品。カードによるスゴロクゲームらしい面白さと戦略性がぎゅっと詰まっている。その分、プレイ順不同によるゲームの煩雑さが気になってしまった。おそらくはカードが3倍使えれば、さらにおもしろい作品になる。
◎マッシヴ! Attack of the Tyrant(Roughneck:7) 7.2点
透明プラカードに描かれた怪獣の胴体・頭・手・足を使い、カードと組み合わせて怪獣プロレスを行うカードゲーム。元・怪獣オタクとしてはなかなか燃えるものである。怪獣が2体しかいないので、拡張編と合わせて遊びたい。
◎Minerva/ミネルウァ(OKAZU brand) 8.3点
カードで表される施設を組み合わせて都市経営を行う。日本人が作ったとは思えないほど、ローマなゲームであり、ボードゲームの国境を超えたものである。多数あるカードの効果がほぼ単発であるため、インストが長めだが、完成度も高く、いずれ、海外で本格タイトルとして発売されるだろう。ドイツゲーム的な意味合いの強い中量級ゲーム。
◎ライツ(オインクゲームズ) 7.7点(選外)
伝統的な衣装の著作権を奪い合うマジョリティ系のカードゲーム。面白いし、シンプルだが、『海底探険』の方が面白いので、審査にあたっては選外とした。あと、カードが小さい点がやや不満。
◎ライデマイスター(BakaFire Party、全ファミ協会) 6.9点
ひもを使ったアクション・ゲーム。朱鷺田は苦手です。すいません。
キッズ向けトイ・ゲームとして購入するのはアリ。ハバあたりから出してほしい。
◎猛牛が倒せない(こたつパーティー) 6.9点
ルールがシンプルで分かりやすいカードゲーム。入門編として評価。
◎知ったか映画研究家(豚小屋) 6.3点(選外)
同人ゲームらしいネタ満載のジョークゲーム。映画好きが集まって酒でも飲みながらやれば最高。
ただし、本当の映画の題名が出来てしまうあたりがあり、選外とせざるを得ない。
◎犯人は踊るポーカー(鍋野企画+数寄ゲームズ) 7.5点
人狼系推理ゲームの小品。個人的にはすでにコンポーネントが反則。
◎勝手にしやがれ!(賽苑) 8.1点
両面に絵柄が描かれた木製タイルを使用し、ブラインドでピラミッドを築き上げる協力ゲーム。賽苑らしいセンスが印象的である。
◎幻影探偵団(ハッピーゲームズ) 7.3点.
大正浪漫を具現化した推理ゲームで、江戸川乱歩が好きなら、買って損はない。基本的に、塗りつぶし系の推理ゲームなので、それを楽しめるかどうかが肝。
◎一撃ヒーローズ(ボドゲイム) 7.2点
カードをめくって超必殺技を繰り出すという一発ネタのゲーム。ヒーローもの好きなら、プレイの価値あり。叫びたい人向け。個人的には面白かった。
◎枯山水(New Games Order) 8.3点
タイルを配置して美しい枯山水を作るゲーム。ルールの見通しもよく、ゲームも適度に短く、終わった後、完成した庭園を鑑賞する楽しみもまた格別なものでした。
さすが、第一回東京ドイツゲーム大賞受賞作を製品化したものである。そもそも、これは評価範囲に入っているのが反則だと朱鷺田としては感じている。ルールもコンポーネントも美しい。そういうニュアンスに加え、ボードゲームの存在をアピールしてくれたことを含めて、特別賞に推しました。
◎海底探険(オインクゲームズ) 8.4点
「よいゲームは、勝っても負けてももう一度遊びたいと思う」私の基本的な評価基準です。今回、大賞を受賞した『海底探険』はまさにそんなゲームです。私はあまり勝てないのですが、もう一度、遊びたいと強く感じました。それはオインクゲームズの作品に通じる見通しの良さが生み出したものです。『小早川』などに見られる知の走った固有のセンスが、吾朗君との共同デザインで丸められ、遊びやすいキッズ・ゲームらしいワクワクドキドキ感に昇華したように感じました。
◎姫騎士逃ゲテ~(蒼猫の巣 出張所) 8.1点
「姫騎士VSオーク」という旬の食材をわずかなカードを使った変則対戦ゲームに仕上げたパズリックな作品。個人的には、日本のゲームミニマリズムの結晶と思っている。ネタはネタなので、ゲームマーケット大賞はあげられないけれど、ネタを分かってもらえる方にはおすすめしたい。