カラメルカラム

神保町にあるゲーム会社です。アナログ・デジタル問わず、ゲームを作っています。

『THE 残業』のルールができるまで
2016/12/9 22:00
ブログ

そうだ、トリックテイキングを作ろう。

乗りと勢いだけでゲムマに出展すると決めた大野は、トリックテイキングなゲームを作ることにした。理由は「高校時代にトランプのナポレオンばかり遊んでたな」「『八十日間世界一周』に出てきたホイストおもしろそうだったな」「大学時代に近くの喫茶店でコントラクトブリッジの話してた謎のおじさん・おばさん多かったな」という漠然としたトリテへの親近感がひとつ。

そしてもうひとつ、ゲムマ初参加でまったくもって無名な弊社のゲームを手に取ってもらうためには、ピンポイントながらもメカニクスとして人気が根強いトリテが選択肢として有力だろう、と打算的な思いがあったからだ。

とはいえ、トリテはなかなか説明が難しいと感じることが多い。ルールの説明はもとより、ルールを理解してもらった上でもゲームのおもしろさを説明するのが難しいという印象だ。「マストフォロー」はまだしも「ビッド」や「切り札の有無」など、繰り返し遊んで肌感覚として理解しないと伝わりづらいおもしろさが、トリテにはあるような気がした。「やり込めばおもしろいんだけど、そこに至るまでのハードルが高い」のがトリテの特徴のひとつだろう。

『THE 残業』の元ネタは、『5本のきゅうり』に代表される「きゅうり」「キューカンバ」と呼ばれるゲームだ。数あるトリテの中でも「モノスート」「ラストトリックで1勝負が決まる」ことが特徴の系譜だ。『THE 残業』ではシンプルでわかりやすいきゅうり系のルールをメインにしつつも、『ハーツ』や『スカルキング』の各要素も取り入れることにした。

【きゅうり系(モノスート+ラストトリック取っちゃダメ)+ハーツ(手札の交換要素+シュート・ザ・ムーン的逆張り要素+ブレイク要素) +スカルキング(モチーフにマッチした掛け声要素)】

まず、手札の交換要素について補足する。トリックテイキングのおもしろさを分解すると、ビッドに代表されるトリック前の戦略要素と、手札のプレイ順といったトリック時の戦術要素、そのふたつの掛け合わせが楽しいのだと気づく。とはいえ、ビッドはトリテ初心者に伝わりづらい問題がある。手札の交換だったら『大富豪』などでも馴染みがあり、習熟までそれほどプレイ回数かからないだろう、ということでトリック前の戦略要素として追加することにした。

手札交換の要素を追加したものの、まだこれでは効果が薄いと感じた。手札の交換には、プレイヤーの戦略が反映されなければならない。モノスートだと、スートという概念がないので手札の交換の指針に幅がなくなってしまったのだ。で、考えてみた。『ハーツ』はなぜ交換がアクセントになるかというと、スートを固めるという以外でもシュート・ザ・ムーンがあるからだ。勝利までの道筋が2パタン以上あれば、手札の交換がスートなしでも生きてくるのでは……? ラストトリックを獲得したら敗北というきゅうり系の勝敗条件とは別に、それ以外のトリックを過半数獲得したら勝利という別軸の勝利方法を設定することにした。詳しいルールはこちらに記載しているが、『THE 残業』ではラストトリック前に獲得したトリック数に応じて《勝ち抜け》できる「高ストレス者判定」ルールを導入している。

「高ストレス者判定」にはもうひとつ狙いがあった。テストプレイ時に出た意見として、「ラストトリック以外でゲームが動いてる感じがしないのは、あんまりドキドキしない」というのがあった。もちろん「いや、その静かなる戦いがおもしろいのだ!」という反論もあると思うが、少々玄人好みなルールなのは間違いない。その意見を受け、なおかつゲームのモチーフを活かしつつ、ラストトリック以前のトリック獲得でストレストークンを獲得し、ストレスが一定以上溜まったらカウンセラとの面談でライフが回復するという「高ストレス者判定」ルールが生まれた。

このルールを採用したものの、またバランス調整の必要に迫られた。「高ストレス者判定」はラストトリック以前の4トリックのうち、3トリックを獲得したものとしていた。効果は失ったライフの回復。となると、敗北したプレイヤーにこそ意味のある効果だが、敗北したプレイヤーは次ディールのスタートプレイヤーとなるので(後述する終電ブレイク要素も相まって)1回目のトリックを獲得しづらい。つまり、実質2回目〜4回目のトリックの内、3トリックを獲得しなければならないのだ。そのため、やや大味になることを承知で、敗北プレイヤーはストレストークン1個を最初に受け取り、4トリック中2トリック獲得したら「高ストレス者判定」というバランスにした。ライフ回復する機会が増えたことで逆転性も高まったので、パーティゲーム的な調整としてはベターだったと考えている。

『ハーツ』から取り入れた要素はもうひとつ、ブレイク要素がある。『ハーツ』のハートブレイク同様、『THE 残業』では"誰かが「終電オワタカード」を場に出す(以降、「終電ブレイク」と呼ぶ)まで、「終電オワタカード」を場に出すことはできません"というルールを採用している。1ディールのカード枚数を少なくした本作において、序盤の「終電オワタカード」が理不尽に機能しすぎてしまうことが懸念されたからだ。「終電ブレイク」のタイミングは相手プレイヤーにも依存するので、思うように終電オワタカードを出せない瞬間もあり、手札交換時に考慮すべき点にもなった。なにより、誰かが終電を逃さない限りその週は終電過ぎまで働けない(裏を返せば、誰かが終電を逃したらその週はみんななんとなく終電を逃してしまう)、というのもテーマに合致している。

そして、『スカルキング』から取り入れたのが「モチーフにマッチした掛け声要素」だ。トリテは比較的無言でプレイしてしまいがちな気がしていた。これはテストプレイ時にも感じたことだ。みんな必死に、手札とにらめっこして考え込んでしまう。だが、『UNO』しかり『麻雀』しかり、ゲームルール内に発声要素があると口の滑りが良くなってパーティゲームらしさが出るのでは? と仮説を立て、『THE 残業』では先にカードをプレイした人が「お先に失礼します!」と声を掛け、次以降にカードをプレイした人は「お疲れ様です……」と返すという、ロールプレイング感を高める掛け声を採用している。

掛け声同様、モチーフ感を強調するための工夫としてカードの数字がある。カード内に記載された数字は退勤時間を示しており、すべて独立した数字としている。数字の種類は31枚、これはひと月と同じ日数だけあるということだ(土日祝日はどこだ、など考えてはいけない)。1ディールで使う枚数は1人5枚なので、4人プレイ時では31枚中20枚しか使わない。記載された数字がある程度以上にファジィな値だということも相まって相手の手札が読みにくい、ともすればギャンブル性が高く勝ち負けの予想が難しいゲームとなっている。が、カウンティング必須のゲームにするくらいならギャンブル性を高めて、厳密さよりもパーティゲーム性を高めたいという理由で今の形となった。また個人的に、同じ数字だけど先に出した(あるいは、あとに出した)人の勝ち、というのがあまり好きでなく、いっそすべての数字をユニークとしてしまえという好みに寄るところも大きい。

そのほか、好みの問題で採用しているルールも多い。まず、カード枚数は少なくしたかった。1ディールが終わるのに10トリックかかるのは少しテンポが悪いと感じることもあり、使用カード枚数は1人5枚とした。初期手札が5枚だと出せるカードの幅はどうしても少なくなってしまいがちだが、トリックテイキングは小規模なディールを重ねて遊んだ方が初心者でも馴染みやすいかと思ったのも理由だ。

また、失点の計算はライフポイント制としトークンで管理することにした。これも個人的な好みで、コンポーネント外の紙とペンで点数表をつけるのが苦手だったからだ。ラストトリックで出したカードが「終電オワタカード」の場合は2点失点、それ以外は1点失点としたことで、「終電オワタカード」を不用意に溜め込むことへのリスクもつけることができた。カードゲームで「ライフ」「ストレス」と2つのリソース(トークン)を用意するのは、ややデジタルゲームの文法に近くアナログゲーム的な美しさに欠けるかもと思ったが、そこはある程度目をつむることにした。

とういわけで、長々と『THE 残業』のルールができるまでについて書いた。ちなみに、これはブログ用に書き起こしたものというよりも、ルールブックを書くまえに自分用メモとして書いたものをベースとしている。「はてさて、自分はいったいどうしてこのルールを採用したんだっけ……」ということを、あらためて言語化して整理したかったからだ。ともかく、トリックテイキングが好き、きゅうり系が好き、なんとなくアートが気になる、理由はなんでも大歓迎なので、気になったら12/11(日)に【J04】にお越しいただけますと幸いです。

『THE 残業』に関する内容は、ゲーム詳細も併せてご確認いただければ。

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